<北水ブックス>

ぼくらは航海しない

―水産学部・動物生態学研究室での卒業研究体験記

和田哲(北海道大学大学院水産科学研究院 教授)編

7名の学生さんが、卒業研究体験を、自由奔放なスタイルで公開。悪戦苦闘のなかで新発見に出会う様子や、そのときの心情が描かれています。大学生の生活や、研究室というものの雰囲気も感じ取れそう。研究対象として登場するのは、巻貝、魚のあくび、フジツボ、ヘビトンボの幼虫、イワナ、吸虫、ヒトデと、バラエティ豊か。

書籍データ

発行年月 2025年10月中旬
判型 A5
ページ数 96ページ
定価 2,200円(税込)
ISBNコード 978-4-303-80012-3

概要

本書について:タイトルと内容
 本書で紹介される体験記の舞台、北海道大学水産学部の動物生態学研究室には、暗黙の掟があります。航海しない。船に乗って調査に出かける研究はしないという掟です。北海道はプロ野球チームでさえ大航海をスローガンに掲げるほど、航海が好きなお土地柄(?)。そんな北海道にある水産学部といえば、船に乗って航海するイメージを抱く人が多いでしょう。けれども、私たちは船に乗らない研究室。読者のみなさんには、これがいちばん意外かもしれないと思って、本書のタイトルとしました。
 本書は、動物生態学研究室で卒業研究を完成させた学生さんたちが、その体験を自由奔放なスタイルで公開している本です。あくまでも体験談。卒業研究の正しい進めかたを解説した本ではありません。進学先である大学や学部を決めた理由、卒業研究の指導教員や研究室を決めた経緯、卒業研究の対象生物を決めた経緯、そして卒業研究を進めていくなかで体験したことや悩んだことなどを後輩たちに語っている本です。勢いあまって、大学院に進学した後の話まで語っていることもあるのは、ご愛嬌。本書を執筆した学生さんたちの人生が十人十色であるように、研究室や研究テーマを決めた経緯も、調査や実験の具体的な進めかたもさまざまで、体験談を終えるちょうどよいタイミングも人によって違うのです。でも、そんな文章からも、ひとりひとりの人柄や、どんな生物が好きかという違いも伝わるでしょう。大学生の生活や、研究室の人間関係など、水産学部がある函館キャンパスの雰囲気も、なんとなく感じ取れるかもしれません。

本書の読者:高校生や大学生
 本書が読者として想定しているのは、おもに高校生と大学1、2年生です。まず高校生のみなさん。きっと多くの高校生が「〇〇大学▲▲学部の合格体験記」を読んでいることでしょう。合格体験記は「受験の勝者」の体験記。読んでみたくなるのもうなずけます。けれども、大学での学び、とくに大学生が大学生活の集大成として為すと噂されている「卒業研究」がどんなものか知っていますか。大学に入学したあとでしなければならないことをまったく知らずに進路を決めるのは、かっこいい高校生がやるべき情報収集として、片手落ちな感じがしませんか。もちろんSNSなどで探すと、卒業研究で苦労している人たちの悲鳴が簡単に見つかります。でも、卒業研究って、そんなに苦行なのでしょうか。本当は、卒業研究がすごく充実していて、すごく忙しいけれども、すごく楽しくて。SNSでつぶやくことも忘れて取り組んでいたという大学生だって大勢いるのではないでしょうか。本書で、そんな卒業研究の充実ぶりを知りましょう。きっと自分も卒業研究を体験してみたいと強く強く願うようになるはずです。
 大学1年生や2年生のみなさん。みなさんは、高校生よりも本書を身近に感じられることでしょう。本書は、部活やサークルで先輩に卒業研究について訊いてみようかな、あるいはちょっと勇気を出して講義などで興味を持った研究室を訪問してみようかなと行動するきっかけになるかもしれません。本書が、みなさんに卒業研究や研究室の楽しさを伝える本となることを願っています。
(「はじめに」より)

目次

はじめに(和田 哲)

◎飛び込んだ先にあるもの(冨吉 啓恵)
 転機
 自分だけのテーマを探せ!
 巨人の肩の上に立つ
 百聞は一見に如かず
 目線を変える、拡張してみる
 実験にまつわるエトセトラ
 実験を終えて
 初めての学会大会
 行動生態学で世界を覗く
 おわりに ~自分だけの絶景スポットを求めて~

◎魚があくびぃ?(長坂 玲央)
 行動生態学の門を叩く
 タコのママになる
 あくび研究を始める
 [コラム]学生寮
 観察をしてみる
 学会に出てみる
 [コラム]うまくいかないこともある
 論文を書いてみる

◎私って何してたっけ?(奥野 楓子)
 オニフジツボを観察してた
 白浜に行ってた
 イワフジツボを解剖してた
 タコママの代行をしてた
 ダニ学会に出てた
 グシケンのお手伝いをしてた
 修士研究何しようかなぁって考えてた
 撮った動画をとにかく見てた
 甲殻類学会でポスター発表をしてた
 卒業研究体験記を書いてた

◎石の下を観る(奥山 快)
 これまでの軌跡 ―なぜ生態学の道へ進んだか
 出会い ―研究室配属と対象種の決定
 石の下を観る ―闘争の発見
 洗礼 ―計画発表
 研究の醍醐味 ―データ集めと解析
 番外編 ―旅行記
 下準備 ―卒業発表と学会発表に向けて
 晴れ舞台 ―初めての学会と受賞
 生態学のすすめ

◎イワナに魅せられて(本井 琢路)
 私の過去と研究室配属
 研究室の特徴とテーマ決め
 行動観察 ~とりあえずやってみる~
 新しい気づき
 実験と剣道の両立
 データ収集と院試
 卒業発表
 まとめ

◎吸虫に取り憑かれた男のはなし(三浦 健太郎)
 吸虫に取り憑かれるまで
 テーマを決める
 頭でっかち
 晴天の霹靂
 過酷な一人旅
 四国を味わいつくす一年
 いざ学会発表

◎ヒトデをひっくり返す(具志堅 晴人)
 ヒトデを見に行こう
 ヒトデをひっくり返せ!
 ヒトデの常識をひっくり返せ!
 ヒトデを見て生きよう
 囲の中のヒトデ、大会を知る
 下馬評をひっくり返せ!