船長のための海洋関係法

―海洋の自由と法秩序

逸見真 著

商船の船長、航海士、それらを目指す学生が学んでおくべき国際法、海洋法、関連する国内法についての概説書。法理、法原則の説明には豊富な事例を加え、重要なトピックはコラムとして解説し、内容を充実させた。船長経験者として海技大学校での実務教育に従事した後、東京海洋大学で法律学の教鞭をとる著者集大成の一冊。

書籍データ

発行年月 2023年10月
判型 A5
ページ数 400ページ
定価 3,960円(税込)
ISBNコード 978-4-303-21934-5

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概要

 本書は外航商船の船長、航海士他の職員、そしてこれらを目指す学生学徒を主たる対象に置き、東京海洋大学での私の講義の内容をもとに海洋法を、特に国連海洋法条約及び関連する国際条約、国内法(主として日本法における刑事、民事、行政に係る法律)について概説したものである。
 船員法や海上交通法規のみならず、国際法である海洋法を含めて、海に関する法律の形成には船舶、船員の古来の営みによる影響が看取できる。海を職場とする者の故意または過失による行いを規範的に論じ、これを律する法が生起してきたのである。数々の判例はその端緒や過程を示している。
 現在の法が求める海洋の平和や秩序の維持、環境保護の最終的な担い手の多くをも船員が占めている。よって特に一船及びその乗組員を統括して運航管理する船長は、自身の職責を果たすにあたり、関連する法律に一定の素養のあるべきことに異論を見ない。
 執筆において念頭に置いたのは、これを船員実務に則した法律の指南書とすることにあった。条約、法令が船長、船員に求めるところは何か、船長はこの条文の意味をどう捉え理解し、実務に反映させるだろうか等、想いを馳せ、関連する文献、資料を参考としつつ書き進めた。本書が船長、船員実務に微力なりとも寄与すれば、私にとり幸いこれに勝るものはない。

目次

序章 船長と船員
  第1節 船舶と船員の法的地位
  第2節 船員を取り巻く法環境
  第3節 自動化船、無人化船により変貌する海洋法

第1部 海洋法と海域の区分
 第1章 海洋法の成立と展開
  第1節 歴史的俯瞰
  第2節 海洋における新秩序の形成
  第3節 海洋法条約と船員
 第2章 基線・内水
  第1節 基線
  Column 低潮高地(海上に出没する陸地)
  第2節 内水
  Column テキサダ号事件(瀬戸内海の法的地位)
  第3節 港・停泊地
 第3章 領海と無害通航権
  第1節 領海
  第2節 無害通航権
  Column コルフ海峡事件(国際海峡内の危険)
  Column 日本船長協会による自主航路
  Column プルトニウム(核物質)輸送(沿岸国による無害通航規制)
 第4章 国際海峡
  第1節 国際海峡
  Column トカラ海峡の法的地位
  Column 日本領海にある国際海峡
  第2節 通過通航権
  Column 日本の生命線と国際海峡
  Column 政治や地理的条件の影響する国際海峡
  第3節 通航支援
 第5章 群島水域・島
  第1節 群島水域
  第2節 群島航路帯通航権
  Column インドネシアとフィリピンの群島航路帯
  第3節 島
  Column 島に関する国家実行
 第6章 接続水域・排他的経済水域・公海
  第1節 接続水域
  Column 米国の禁酒法と接続水域
  第2節 排他的経済水域
  第3節 公海
  Column 軍事演習海域の法的地位
 第7章 大陸棚・深海底
  第1節 大陸棚
  第2節 深海底
  Column 海底鉱区指定(深海底の鉱物資源)

第2部 船舶及び船員に対する管轄権
 第1章 船舶と船員
  第1節 船舶と船員の主体性
  第2節 船舶の定義
 第2章 内水・領海・排他的経済水域における外国船舶に対する管轄権
  第1節 海洋法の実践
  第2節 刑事裁判権
  第3節 内水
  第4節 領海
  Column 密入国・密航(出入国管理)
  第5節 排他的経済水域
  第6節 民事裁判権
  Column エクソン・バルディズ号事件(米国懲罰的損害賠償)
  Column ヒルハーモニー号事件(定期傭船契約における船長の航路選択権と損害賠償)
  Column オーシャン・ビクトリー号事件(港内での荒天座礁に対する船長責任と損害賠償)
 第3章 公海にある外国船舶に対する管轄権
  第1節 旗国主義
  Column プリムローズ号事件(国籍不明機による船舶攻撃)
  第2節 真正な関係と便宜置籍
  Column アモコ・カディス号事件(便宜置籍船による海難)
  Column マグダ・マリア号事件(便宜置籍船による公海上からの無許可放送)
  第3節 公海上の外国船舶に対する執行
  第4節 旗国主義の例外と公海海上警察権の執行
  Column 民間武装警備員(商船への武器の持ち込み)
  Column マリア・ルース号事件(奴隷船への介入)
  Column アキレ・ラウロ号事件(テロリストによる乗っ取り)
  Column ISPSコード(船舶・港湾におけるテロ対策)
  第5節 刑事裁判権
  Column ローチェス号事件(公海上の異国籍船舶同士の衝突)
  第6節 民事裁判権
  Column 座礁船撤去の問題(ナイロビ条約)
  第7節 軍艦と政府船舶
  Column 神戸英国軍艦水兵事件(乗組員による公務外の犯罪)
  Column クリコフ船長事件(外国公船による不法入国)
  第8節 漁業に関する特則
  第9節 沈没船に対する管轄権
  Column 太平洋戦争における海没船(沈船の所有権と海洋汚染)

第3部 船員の使命
 第1章 海洋環境の保護
  第1節 海洋環境の汚染
  第2節 一般的な義務
  Column ヘラルド・オブ・フリーエンタープライズ号事件(船舶管理会社の責任)
  Column ポート・ステート・コントロール(寄港国管轄権の実践)
  第3節 海洋環境保護・保全のための特定海域
  Column 海洋保護区
  Column バラスト水管理
  第4節 投棄による汚染
  第5節 大気汚染
  第6節 海難による汚染
  Column トリー・キャニオン号事件(公海上の海難への介入)
  第7節 外国船舶の調査
 第2章 海洋の科学的調査
  第1節 海洋の科学的調査の目的と実施
  Column 海洋科学調査と軍事目的調査
  第2節 関係国の権利義務
 第3章 海難救助・緊急入域
  第1節 海難救助
  Column タンパ号事件(公海上での難民救助)
  Column タイタニック号の生存者救助(船長の使命)
  Column 潜水艦による衝突事件(予期せぬ突然の海難)
  第2節 沿岸国領域における救助
  第3節 海難と緊急の避難
  Column 船舶における感染症への対応
参考文献
索引
連海洋法条約 条文索引

プロフィール

逸見 真(へんみ しん)

1985年3月 東京商船大学商船学部航海学科卒業
1985年9月 東京商船大学乗船実習科修了
2001年3月 筑波大学大学院経営・政策科学研究科企業法学専攻課程(修士課程)修了
2006年3月 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻課程企業法コース(博士課程)修了
      新和海運(株)船長を経て、
2009年4月~14年3月 (独)海技大学校(現(独)海技教育機構)講師・助教授・准教授
2013年4月~14年3月 同校付属練習船 船長併任
2014年4月~17年3月 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科海洋工学系 教授
2017年4月より現在  東京海洋大学 学術研究院海事システム工学部門 教授

日本航海学会理事、常務理事、副会長を経て現在、会員
日本船舶職員養成協会理事、海洋会理事、東京海洋大学海洋工学部後援会理事
山縣記念財団評議員、日本船長協会会員

著書に『便宜置籍船論』(単著、信山社、2006年)、『船長論―引き継がれる海の精神』(単著、海文堂出版、2018年)、『船長職の諸相』(編著、山縣記念財団、2018年)、『日本の海のレジェンドたち』(共著、山縣記念財団、2021年)

一級海技士(航海)
博士(法学)