基礎から学ぶ

海運と港湾

池田良穂 著

船舶工学、海洋工学、クルーズビジネスなどの分野における専門家である著者が、日本経済を支える海運、海上輸送を担う船舶、人流・物流の拠点である港を中心に、入門書としてまとめた。多数の写真やイラストを使用し、コラムも交えながら分かりやすく解説。[2024年5月、2版3刷発行]

書籍データ

発行年月 2017年9月
判型 A5
ページ数 224ページ
定価 2,530円(税込)
ISBNコード 978-4-303-16407-2

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概要

 この本で取り上げる海運と港湾は、船を扱う船舶工学、港湾技術を扱う港湾土木工学、流通科学やロジスティクス、海運経済学など、理系から文系に至るきわめて幅広い知識を必要とする学際的な分野です。
 海運の主役である「船」は、水から受ける浮力で水面上に浮かび、最も少ないエネルギーで、人や重たい荷物を大量に運ぶことができる超省エネ型の輸送機関です。グローバル化が進む世界経済において大量の物資が海を渡っており、日本の輸出入貨物の99.6%が船によって運ばれています。天然資源が乏しい日本は、エネルギー資源である原油や天然ガスのほとんどを輸入に頼っており、世界各地の産地からタンカーやLNG船と呼ばれる専用船で運ばれてきます。また私たちが生きるのに欠かせない食糧についても、その多くを輸入に頼っており、穀物などはばら積み船で、また生鮮食品などは冷凍物運搬船などで運ばれてきます。
 こうしたさまざまな必需品を輸入するためには、より付加価値の高いものを輸出して稼ぐことが必要となります。そのため鉄鉱石などの天然資源を輸入して、製品に加工して、付加価値をつけて輸出することで日本の経済は成り立っています。こうした製品の多くは、コンテナ船をはじめとする各種船舶で輸送されています。
 船を使って、人や荷物を輸送するのが海運業です。鎖国をしていた江戸時代から、明治時代になって、政府が真っ先に取り組んだのが近代的な海運業の振興でした。その頃、すでに海外では、帆船の時代からエンジンで走る動力船の時代に変わっており、その最新技術を吸収することで日本の海運業は急速にその実力を上げていきました。そして、巨大で、複雑な船の建造にも力を入れました。
 しかし、第2次大戦で日本の海運は壊滅的な被害を受けました。戦後に、日本経済を甦らせるために、もう一度、海運、造船などの海事産業が大きな役割を演じました。そして、今では、日本は世界でも有数の海運国、造船国に復活しました。
 人が船に乗り下りしたり、荷物を船に揚げ降ろしたりする場所が港湾です。この港湾なしには海運業は成り立ちません。欧米のハンザ都市と同様に、日本でも多くの都市が、港を中心に形成されました。まさに港は人流、物流の拠点であり、そこに経済が成長して、人々の暮らしが成り立ったのです。港は、海運の変化に伴ってダイナミックに変わっています。大洋を渡る定期客船の時代が終わって客船埠頭はクルーズ客船埠頭に変わり、在来型貨物船が荷役をしていた櫛形の埠頭はガントリークレーンが並ぶコンテナ埠頭に変わりました。そして、今でも日本の各港湾都市は、その経済基盤のかなりの部分を港湾関連産業に頼っています。
 その様子は、各港にある展示施設や海事博物館で見ることができます。また、港巡りの遊覧船に乗って、ダイナミックに活動する港と船の様子を実際に見てください。港湾がもつ重要性が分かると思います。
 この本では、人や荷物の輸送に使われている船舶を使った海運事業と、その海運のための社会基盤(インフラストラクチャー)としての港湾について、科学および工学の知識も含めて、文系の学生の方々に必要な教養としての知識を分かりやすくまとめました。みなさんの人生の航海における素養としてきっと役立つはずです。新しい船出における安全な航海を祈念して、ボン・ボヤージュ(ご安寧な航海を)!

目次

はじめに

第1章 船舶と海運の基礎知識
 1.1 船の歴史
 1.2 海運事業の歴史
 1.3 船のしくみ
 1.4 船ができるまで
 1.5 船の種類
 1.6 航路
 1.7 船の専門用語

第2章 外航海運と内航海運
 2.1 外航海運
 2.2 内航海運

第3章 定期船と不定期船
 3.1 定期客船
 3.2 定期貨物船
 3.3 不定期船

第4章 海運事業
 4.1 海運会社
 4.2 アライアンス
 4.3 海運業の構成企業・団体
 4.4 海運と港
 4.5 船の調達
 4.6 日本の船主
 4.7 船の所有方式

第5章 海運に使われる船舶の特性
 5.1 船舶の特性
 5.2 商船の種類と役割
 5.3 船舶のエネルギー効率とモーダルシフト

第6章 港湾
 6.1 港を築く
 6.2 港湾施設
 6.3 防波堤の機能と構造
 6.4 公共埠頭と専用埠頭
 6.5 港の建設
 6.6 係船施設
 6.7 専用船化に伴う港の変遷
 6.8 日本の港湾戦略

第7章 国際複合輸送と国際複合一貫輸送
 7.1 国際複合輸送の歴史
 7.2 コンテナ船の登場と国際複合輸送の発展
 7.3 シベリア・ランドブリッジの衰退
 7.4 もうひとつの国際複合輸送―シー&エアー
 7.5 輸送期間短縮のための複合輸送
 7.6 国際複合一貫輸送とは
 7.7 需要の評価法

第8章 ロジスティクス
 8.1 ロジスティクスとは
 8.2 産業構造のグローバル化
 8.3 需要と供給の同期化
 8.4 海運会社が取り組んだロジスティクスの事例

第9章 海運会社の役割
 9.1 海運会社の組織
 9.2 外航海運マーケットの指標
 9.3 海運マーケット変動の理由
 9.4 新しい海運マーケット

第10章 船の運航
 10.1 船員構成
 10.2 運航コストの中の船員費
 10.3 高度船舶安全管理システム
 10.4 船の運航技術

第11章 港湾荷役
 11.1 港湾荷役とは
 11.2 革新荷役
 11.3 港湾荷役の規制緩和

第12章 船の安全性
 12.1 船のルールを決める国際海事機関(IMO)
 12.2 船級協会の役割
 12.3 船舶に関する国内法
 12.4 重大海難の歴史
 12.5 ヒューマンエラーと海難
 12.6 安全工学
 12.7 海賊問題

第13章 造船業
 13.1 船を建造,修理する造船業
 13.2 新造船船腹量の推移
 13.3 どのような船が造られているのか
 13.4 日本の造船企業ランキング
 13.5 日本の造船業の売上の推移
 13.6 造船業で働く人々
 13.7 造船所の仕事の流れ
 13.8 船は進化している
 13.9 最近の革新的船舶・船舶技術
 13.10 船の検査と修理
 13.11 地域産業としての造船業

第14章 クルーズ客船ビジネス
 14.1 定期客船からクルーズ客船へ
 14.2 新しいビジネスモデルの誕生
 14.3 現代クルーズのパイオニア
 14.4 よきライバルによる相乗効果
 14.5 専業旅行代理店がマーケットを開拓
 14.6 クルーズ客船の大型化
 14.7 斬新な大型新造船が新しい需要を生む
 14.8 カリブ海に次ぐクルーズ水域の開拓
 14.9 アジアの雄から世界に躍進するスタークルーズ
 14.10 欧州のクルーズマーケットの爆発
 14.11 東アジアへの現代クルーズの導入
 14.12 クルーズマーケットの分布と成長率
 14.13 クルーズ運航会社の寡占化
 14.14 稼働中のクルーズ客船の数
 14.15 現代クルーズ会社の収入構成

第15章 コンテナ船ビジネス
 15.1 シーランド社が始めたコンテナ海上輸送
 15.2 定期ライナーからコンテナ船に
 15.3 コンテナ船の高速化
 15.4 ハブ&スポークシステムの定着
 15.5 グローバルアライアンスの形成
 15.6 コンテナ船の大型化
 15.7 コンテナ荷動きの変遷
 15.8 広がるコンテナ貨物

第16章 港の在り方
 16.1 港湾と港町
 16.2 ハブ港とフィーダー港
 16.3 日本のハブ港を育てる
 16.4 地方港の在り方
 16.5 地方都市における港湾の経済波及効果
 16.6 日本の港湾関連予算と施策
 16.7 ハブ港を目指す理由

おわりに
参考文献
索引

 コラム1 新パナマ運河の開通
 コラム2 北極海航路
 コラム3 ノットの語源
 コラム4 ノンバラスト船の開発
 コラム5 運航水域
 コラム6 飛行機と対抗するには船の高速化が必要?
 コラム7 フェリーとは
 コラム8 コンテナ海上輸送のパイオニアは?
 コラム9 特殊コンテナ
 コラム10 海運会社によって違うファンネル
 コラム11 アライアンスの効果
 コラム12 海事クラスター
 コラム13 ギリシャ船主
 コラム14 船の減価償却とは
 コラム15 規模の経済
 コラム16 PCCとPCTC
 コラム17 ドローンのエネルギー効率は?
 コラム18 各地に残る築港という地名
 コラム19 鉄道が走るデタッチド・ピア
 コラム20 損益分岐点
 コラム21 深刻となっていた日本籍船の減少
 コラム22 2000年代初頭のコンテナ船の運賃
 コラム23 船員の労働組合
 コラム24 アメリカ籍船はアメリカ人が運航
 コラム25 AISデータ
 コラム26 自動運航船
 コラム27 需給調整規制
 コラム28 港湾とギャング
 コラム29 船級協会の発祥
 コラム30 自動車事故の低減
 コラム31 海賊のイメージ
 コラム32 GPSとは
 コラム33 バラスト水管理条約
 コラム34 PCCから自動車専用コンテナ船へ
 コラム35 沖縄をトランシップ港に
 コラム36 経済波及効果とは
 コラム37 ハブ港としての成功事例:ユーロポート

 写真で見る定期客船からクルーズ客船への変遷
 写真で見るカーフェリーの変遷

プロフィール

池田良穂(いけだよしほ)

大阪府立大学名誉教授・特認教授,大阪経済法科大学客員教授

船舶工学,海洋工学,クルーズビジネス等が専門。専門分野での学術研究だけでなく,船に関する啓蒙書を多数執筆し,雑誌等への寄稿,テレビ出演も多く,わかり易い解説で定評がある。