現場実務者のためのリスクマネジメント

ヒューマンパフォーマンス向上とリスク低減

氏田博士・作田博・前田典幸 共著

前半で、「リスクマネジメント」「リスク低減」「ヒューマンパフォーマンス向上」「安全文化」の概念と、その関係性、ヒューマンファクターの概要を述べた上で、後半は、トラブルの範囲が組織全体にまで及ぶ組織事故の分析や、逆にトラブルのなかで事故拡大の防止に役立つ対応である良好事例の分析などの具体例を示す。

書籍データ

発行年月 2023年3月
判型 A5
ページ数 144ページ
定価 2,750円(税込)
ISBNコード 978-4-303-72982-0

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概要

 技術システムの安全を確保し、さらに向上させるために、個別のトラブル対応ではなく、システムのリスクバランスを見て最適化を図るリスクマネジメントの重要性に対する認識が高まってきた。また、技術システムが巨大化し複雑化するにつれて、事故要因の考えかたは人間個体の問題からシステムや環境や組織との複合性に注目するようになり、システムの要素としての人間特性と組織要因を理解して最適化を図るヒューマンファクター分野が発展してきた。このことから、システムのリスクマネジメントを実現する上で、ヒューマンファクターを考慮することが必須となってきた。さらに、組織の持つ組織文化のなかで安全に対する認識(安全文化)の醸成が、リスク低減に大きく寄与することが明らかになってきた。
 本書の前半では、リスクマネジメントの実践に必要なキーワードである「リスクマネジメント」「リスク低減」「ヒューマンパフォーマンス向上」「安全文化」の概念と、その関係性について述べる。なお、リスクマネジメントや安全を考える上で必要な知識としてのヒューマンファクターの概要を、個人の認知-対人関係-チームワーク-組織特性に分類して示す。
 システムの安全性向上を図るためには、「どこまで安全であれば安全といえるか?(How safe is safe enough?)」に答えることが要求され、その回答として社会的合意事項である安全目標がある。システムの安全性を確保するための安全設計の明確な方法論は存在しないが、1つの方向性を示唆するものとして深層防護の概念がある。これは、1つの手段で安全を確保するのではなく、多様な手段を組み合わせて安全なシステムを実現しようとする考えかたである。
 巨大複雑システムにおける「リスクマネジメント」とは、「部分最適が全体最悪をもたらす」ことがないように、過不足のないバランスのとれたシステムの設計(ハード/ソフト)と運用(人間)により安全性向上を実現しようとする活動と言える。言い換えれば、それは、リスクの優先順位に基づき、コストも考慮して、合理的な範囲で脆弱性をつぶしていく「リスク低減」活動である。
 ところで、いまある巨大複雑システムは、深層防護や設計基準事故などの安全の論理に基づくハード設計や品質保証活動を通じて、ハードに起因あるいは関わるリスクは2割程度まで低減しているので、残ったリスクは人間が絡んだ事象と言える。このため、リスク低減活動は、リスクに関わる人間行動を良い方向に誘導する「ヒューマンパフォーマンス向上」活動という言いかたもできる。さらには、業務プロセスにおける脆弱性を見つけてつぶしていく「ヒューマンパフォーマンス向上」活動を継続することによって初めて「安全文化」の維持向上にもつながっていくものと考えることができる。
 本書の後半は、トラブルの範囲が組織全体にまで及ぶ組織事故の分析や、逆にトラブルのなかで組織として事故の拡大の防止に役立つ対応である良好事例の分析などの具体例を示した。そのなかでは、リスクマネジメントの実践の困難さと必要性、さらには対策の考えかたも示す。多様な事例の分析結果が、実務で分析に携わる現場担当者の参考になることを期待している。
 本書は、安全問題に興味を持つ学生から専門家、技術者、研究者まで、多様な人々に読んでもらい、システムの安全を達成するためには、リスクマネジメントの発想でシステム全体のリスクのバランスを見てリスク低減を図ることが肝要であることに対する理解を広め、また深めてほしいとの思いで執筆した。とくに、組織において安全問題を担当する部署や品質保証活動を実施する部署の方々にはぜひとも読んでいただきたいと念じている。現場でトラブル対応(原因分析や対策立案)するなかで、その方法や手順をどうすべきか悩んでいる人々や、リスクマネジメントを現場に定着、普及させる方法を日夜模索している人々の参考になることを期待している。(「はじめに」より)

目次

第1章 技術システムと人間
 1.1 技術システムと事故の様相の変化と安全のスコープの拡がり
 1.2 事故とエラーのモデルの変遷
 1.3 ヒューマンモデルとは(認知、対人、チーム、組織)

第2章 ヒューマンパフォーマンス向上によるリスク低減
 2.1 ヒューマンファクターとヒューマンパフォーマンス向上の考えかた
 2.2 ヒューマンパフォーマンス向上活動
 2.3 ヒューマンファクターを考慮したリスク低減の方策 ―リスク分析
 2.4 HPIツール
 2.5 ヒューマンファクターを考慮したリスク低減の方策 ―原因分析
 2.6 原因分析手法と根本原因分析手法

第3章 「システムの安全」の考えかた
 3.1 「システムの安全」とは
 3.2 安全目標
 3.3 深層防護
 3.4 「深層防護」と「リスクマネジメント」の関係
 3.5 リスク認知

第4章 システムのリスクマネジメント
 4.1 「リスクマネジメント」「リスク低減」「ヒューマンパフォーマンス向上」の関係性
 4.2 リスクマネジメントの実践
 4.3 リスク対応の検討
 4.4 組織の対策の考えかた ―HPIの継続的実施
 4.5 組織文化とリーダーシップ
 4.6 確率論的リスク評価の合理的な活用を図るために

第5章 リスクマネジメントのための組織事故分析
 5.1 組織事故とは
 5.2 組織事故の分析事例
  雪印食品・日本フード・日本食品牛肉偽装事件
  雪印乳業食中毒事件
  みずほ銀行情報システムトラブル
  JCO臨界事故
  東京電力自主点検記録不正
  東京電力原子炉格納容器漏洩率検査での不正操作
  信楽高原鐵道列車衝突事故
  関西電力美浜発電所3号機二次系配管破損事故
  JR西日本福知山線脱線事故
 5.3 事例分析のまとめ

第6章 レジリエントな対策による安全性向上
 6.1 組織事故における対応の良好事例分析
 6.2 良好/失敗事例から見た福島第一、福島第二、女川、東海第二の比較

プロフィール

氏田博士
環境安全学研究所代表、アドバンスソフト(株)リスク研究センター長、工学博士(東京大学)、原子力学会フェロー

作田 博
(株)原子力安全システム研究所社会システム研究所ヒューマンファクター研究センター主席研究員、工学博士(日本大学)

前田典幸
公益財団法人大原記念労働科学研究所協力研究員、一般社団法人原子力安全推進協会調査役