海難事例分析

―安全運航へ向けて

関根 博 著

書籍データ

発行年月 2022年11月下旬
判型 A5
ページ数 270ページ
定価 3960円(税込)
ISBNコード 978-4-303-72976-9

概要

 海運業界の末席で船舶運航に40年以上携わってきたが、その業務の最大の目的は安全運航をいかに達成するかということであった。近年、安全運航管理を目的としたISMコードの発効、BRM/ERM訓練の実施、そしてECDIS、AISといった我老水夫にとっては夢のような装置が開発された。
 しかしながら、こういった最新の安全運航のためのソフトやハードの利用にもかかわらず、多くの海難事故が相変わらず世界の海で発生している。
 それはなぜであろうか。
 その原因を調べていくと、過去の海難と同様の過失や怠慢が何度も繰り返されているのがわかる。さらにそれら海難の根本原因を特定していくと、かつてから言われているとおり人的要因が浮かび上がってくる。換言するならば、船舶の運航や管理に携わる乗組員や船舶管理者(船主)の関わりにあるのである。
 こういった船舶の運航管理に関わる関係者は、経験を積んでいくとともに、つねに人的な新陳代謝が行われることになる。その過程で過去の海難情報やその原因へのアプローチなどが残念ながら希薄になっていく。
 このような背景から、本書は船舶の安全運航を達成するための情報の1つとして、過去の海難とその対応、船舶運航に関するマネジメントの役割、海難史などを改めて検討し、それらから現代に、あるいは将来に通ずる示唆や教訓を得られればという思いから、世に問うものである。
 船舶運航管理に関わる人々は、基幹産業の一員として、世界の海で、陸上で、日々昼夜、つねに緊張のなかで重大な業務を遂行しており、敬意の念を持って止まない。
 本書がそんな彼ら彼女らへの一助となれば幸いである。
(「はじめに」より抜粋)

目次

第1章 転覆・沈没(Capsizing, Sinking)
 1.1 Herald of Free Enterprise転覆
    (海難におけるマネジメントの責任、ISMコード制定の契機となる)
 1.2 Golden Ray転覆
    (積み付け計算の間違いによる復原性喪失)
 1.3 Titanic沈没
    (SOLASの契機となった事例、航海計画と流氷)

第2章 座礁(Stranding)
 2.1 Exxon Valdez座礁
    (過労、アルコール障害などによる不適切操船)
 2.2 Torrey Canyon座礁
    (STCW条約の契機、乗組員の訓練および航海計画の変更手順の重要性)
 2.3 Amoco Cadiz座礁
    (救助契約の問題および船長の職責)
 2.4 Diamond Grace座礁
    (船長とパイロットの情報交換と航海計画の変更、2次災害への対応)
 2.5 航海計画と堪航性-1:CMA CGM Libra座礁
    (航海計画の不備により堪航性がないとされた事例)
 2.6 航海計画と堪航性-2:Torepo座礁
    (航海計画の不備ではあるが、堪航性に問題がないとされた事例)
 2.7 ECDIS関連事故とヒューマンエレメント:Muros座礁
    (ECDISの適切な使用と航海計画変更手順)
 2.8 Queen Elizabeth 2座礁
    (浅水域におけるsquatと船長/パイロットの情報交換)
 2.9 Ocean Victory座礁
    (係留中の荒天避難可否判断、安全港とは何か)
 2.10 Royal Majesty座礁
    (状況認識と航路監視)

第3章 火災(Fire)
 3.1 Scandinavia Star火災
    (船内言語や訓練不足などに関するマネジメントの責任)
 3.2 Finlandia Seaways機関故障・火災
    (不適切な整備による火災、およびCO2による消火)
 3.3 コンテナ船ホールド火災
    (危険物の積載、消火活動における船主など関係者との連携)

第4章 衝突(Collision)
 4.1 分離通航方式航路内での衝突
    (航路横切りの可否判断と航路内適用規則、操船におけるVHFの使用)
 4.2 COSCO Busan橋脚衝突
    (船長/パイロットの情報交換の重要性と事故解析におけるVDRの利用)
 4.3 貨物船と漁船の衝突
    (漁船との衝突原因と適用法規)
 4.4 VHFの使用と衝突
    (操船におけるVHFの適切な使用と問題点)
 4.5 航路出入口付近における衝突-1
    (適用航法の検討:横切りの航法、狭い水道の航法)
 4.6 航路出入口付近における衝突-2
    (第拾雄洋丸/パシフィック・アレス衝突事件)

第5章 走錨と台風(Dragging anchor and typhoon)
 5.1 日本における走錨およびその原因
    (走錨データと錨泊時における把駐力、限界風速)
 5.2 Nomadic Milde走錨
    (錨泊時における守錨当直、振れ回り、およびECDISの使用)
 5.3 台風と海難
    (台風遭遇時における避難および気象情報の重要性)

第6章 人身事故(Personal injury)
 6.1 閉鎖区画入域
    (入域手順、適切な保護具の使用)
 6.2 はしごからの転落
    (パイロットラダー使用による落下事故およびリスク評価)
 6.3 係船作業中の事故
    (係留作業時におけるリスクマネジメント)

第7章 マネジメント(Management)
 7.1 船陸コミュニケーション
    (船舶管理におけるコミュニケーションの重要性)
 7.2 安全運航とステークホルダー
    (船舶運航における社会的責任とサステナビリティ)
 7.3 アデン湾の海賊とわが国海運業界の対応
    (中東における海賊被害に対するわが国海運および関係者の対応)

プロフィール

関根 博(せきね ひろし)

1976年  東京商船大学商船学部航海科卒業
     日本郵船株式会社入社
1994年  船長
2001年  NYK Shipmanagement(Singapore), General Manager
2003年  安全環境グループ長
2008年  常務経営委員
2011年  株式会社日本海洋科学 代表取締役社長
2019年~ トーマス・ミラー株式会社(UK P&I Club)

委員等  東京海洋大学経営協議会委員
     神戸大学客員教授
     東海大学非常勤講師
     Nautical Institute, Fellow
     日本航海学会 終身会員