機械系の運動と振動の基礎・基本

瀧口三千弘・藤野俊和・藤原滋泰 共著

運動と振動の基礎・基本を「シミュレーション」と「運動方程式」をとおして学習することを目的とし,シミュレーションには著者らが開発したフリーソフト(DSS)を用いて解説。また,運動方程式の立て方および固有値問題の解き方を具体的に示し,学習者の理解が深まるよう配慮。

書籍データ

発行年月 2022年1月
判型 B5
ページ数 224ページ
定価 2,970円(税込)
ISBNコード 978-4-303-55170-4

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概要

 物体(例えば機械や構造体)の運動と振動現象をモデル化し,自分で「運動方程式」を立てその式を使って「シミュレーション」し,すぐにその挙動を観察する(アニメーション等で見る)ことができたらどれだけ楽しいであろうか。また,こうした学習活動をとおして力学の基礎・基本を身につけることの意義はとても大きい。本書はこうした観点から,機械系の運動と振動に関する学習のサポートを目的に執筆されたものである。
 機械系の運動と振動に関する教育・学習は,一般に物理における力学に始まり,基礎力学や工業力学,さらにはより専門的な機械力学や振動工学といった教科へと発展していく。これらの一連の学習において重要なことの一つに,「運動方程式」を立てるということがある。一般に運動方程式が求まれば,次に,それを解析的に(数学を使って)解くということが行われるが,解析過程において多くの数学的知識が必要であることから,学習者が問題の本質を理解するに至らない場合がある。また,解析モデルの自由度が増えると解を求めるための計算が複雑になり,解析解は求めにくくなる。こうした際に有効なのが,数値計算による「シミュレーション」である。
 こうしたことから,著者らは多様なレベルの学習者を対象とした,運動と振動問題のシミュレーションを行うソフトウェア(これをDSSと名付けた)の開発を行った。DSSは運動方程式を数値計算により解き,解析結果をグラフィック出力するという一連の作業を支援するソフトウェアである。DSSの中には,運動と振動に関する基礎的な問題から応用的な問題まで多くのシミュレーション35例が用意されている。また,17例の実験教材の運動と振動に関するシミュレーション結果および実際の運動と振動挙動を示した動画も組み込まれている。DSSはフリーソフトとして公開されているので,有効に使っていただきたい。
 DSSを用いた学習の重要キーワードは「運動方程式」と「シミュレーション」であり,そのコンセプトは「解く」,「見る」,「わかる」である。このことを具体化するために,本書は次の8章から構成されている。
 第1章では,運動と振動問題を学習する上での基礎事項について述べている。①運動と振動,②加速度-速度-変位(あるいは,角加速度-角速度-角変位),③モデル化と自由度,④モデルの要素,⑤慣性モーメント,⑥運動方程式,⑦ばね定数の求め方,⑧運動方程式の行列(マトリックス)表示の順に,本書を用いて学習を進めていく上で必要なことが整理してある。
 第2章では,振動問題を学習する上でのポイントについて述べている。①振動の分類,②自由振動と固有円振動数,③強制振動と共振,④固有円振動数と振動モード,⑤運動方程式とシミュレーションの順に,1自由度振動系を中心に説明している。なお,1自由度系の振動には振動現象に共通する基本的な特性がほとんど含まれており,振動問題の基礎・基本となるものである。
 第3章では,DSSについて述べている。①DSSを用いた学習に必要なソフトウェアと動作環境,②DSSの概要,③DSSを用いた学習のイメージ,④デモ用プログラムと学習レベル,⑤シミュレーション結果の出力方法,⑥DSSの操作方法(基礎編)の順に,DSSの紹介とDSSを用いたシミュレーションの方法を説明している。DSSというツール(ソフトウェア)を使い始めるための章である。
 第4章では,最初に運動と振動現象の学習を目的に作成された17例の実験教材を紹介している。次に,この実験教材の中から,①二重振子,②自動車,③ねじり振動系の3例について具体的なシミュレーションの方法と結果について述べている。本章は,第3章のDSSの操作方法(基礎編)に続く応用編である。
 第5章では,等速度運動と等加速度運動の問題(等角速度運動と等角加速度運動の問題も含む)を公式を使わずに解く「図式解法」について述べている。最初に解法手順を示し,次に11問の具体例に対してその解法手順を適用し求めた結果について示している。運動方程式の基礎・基本となる加速度-速度-変位(角加速度-角速度-角変位)の関係を,図式解法をとおしてしっかり理解するための章である。
 第6章では,ニュートンとオイラーの方程式を用いた運動方程式の立て方を述べている。最初に運動方程式の立て方の手順を示し,次に①1自由度問題(7例),②2自由度問題(6例),③3自由度問題(6例),④6自由度問題(1例)の順に,運動方程式の立て方を具体的に示している。なお,必要に応じて<メモ>と称して内容の補足説明を行い,学習者の理解が深まるように配慮してある。本章の最後には,運動と振動系に対する外力の加え方としての力加振と基礎加振について説明している。
 第7章では,ラグランジュの方程式を用いた運動方程式の立て方を述べている。最初に運動方程式の立て方の手順を示し,次に①単振り子,②ぶらんこ,③ばね支持台車と振り子からなる振動系,④二重振子,⑤凹型剛体と円柱からなる振動系,⑥クレーンの旋回運動の順に,運動方程式の立て方を具体的に示している。
 第8章では,固有値問題の解き方を述べている。すなわち,運動方程式から解析的に(数学を使って)固有円振動数と振動モードを求める方法について説明している。最初に解き方の手順を示し,次に①1自由度問題(3例),②2自由度問題(4例),③3自由度問題(2例)の順に固有値問題の解き方を具体的に示している。DSSを用いた数値解との比較を行うことで,より理解を深めることが目的の章である。
 以上のように本書は8章(全ての章に演習問題あり)から成り立っているが,大きくは①運動と振動問題を学習する上での基礎・基本に関する部分(第1章,第2章,第5章),②DSSを用いたシミュレーションと実験教材に関する部分(第3章と第4章),③運動方程式の立て方と固有値問題の解き方に関する部分(第6章から第8章)で構成されている。なお,第5章から第8章の執筆にあたっては,手順にこだわった。同じ手順で多くの問題を解くことによって,ドリル学習的な効果を期待して執筆した。本書を「機械系の運動と振動の基礎・基本」がわかる本として,多くの学習者に利用していただければ幸いである。(「まえがき」より抜粋)

目次

第1章 運動と振動問題の基礎事項
 1.1 運動と振動
  1.1.1 運動と振動について
  1.1.2 質点と剛体および連続体について
  1.1.3 運動の分類
 1.2 加速度-速度-変位(角加速度-角速度-角変位)
 1.3 モデル化と自由度
 1.4 モデルの要素
 1.5 慣性モーメント
  1.5.1 慣性モーメントの定義
  1.5.2 平行軸の定理
  1.5.3 回転半径
  1.5.4 いろいろな物体の慣性モーメントの求め方
 1.6 運動方程式
  1.6.1 概要
  1.6.2 ニュートンとオイラーの運動方程式を用いる方法
  1.6.3 ラグランジュの運動方程式を用いる方法
 1.7 ばね定数の求め方
  1.7.1 等価ばね定数
  1.7.2 合成ばね定数
 1.8 運動方程式の行列(マトリックス)表示
 演習問題

第2章 振動問題学習のポイント
 2.1 振動の分類
 2.2 自由振動と固有円振動数
  2.2.1 1自由度直線振動系
  2.2.2 非減衰自由振動
  2.2.3 減衰自由振動
 2.3 強制振動と共振
  2.3.1 1自由度直線振動系
  2.3.2 定常応答
  2.3.3 過渡応答
 2.4 固有円振動数と振動モード
 2.5 運動方程式とシミュレーション
 演習問題

第3章 DSSについて
 3.1 DSSを用いた学習に必要なソフトウェアと動作環境
 3.2 DSSの概要
 3.3 DSSを用いた学習のイメージ
 3.4 デモ用プログラムの「MAP」と学習レベル
 3.5 シミュレーション結果の出力方法
  3.5.1 時刻履歴プログラム「GRAPH」による出力
  3.5.2 周波数分析プログラム「FFT」による出力
  3.5.3 簡易アニメーションプログラム「ANIMATION」による出力
  3.5.4 自由出力プログラム「FREE」による出力
 3.6 DSSの操作方法(基礎編)
 演習問題

第4章 実験教材とDSSによるシミュレーションの実際
 4.1 実験教材
  4.1.1 パッケージ型振動体と加振装置
  4.1.2 その他の運動と振動教材
  4.1.3 実験教材用プログラムの「MAP」と学習レベル
  4.1.4 実験教材の情報について
 4.2 シミュレーションの実際
  4.2.1 二重振子
  4.2.2 自動車
  4.2.3 3自由度ねじり振動系
 演習問題

第5章 等速度運動と等加速度運動問題の図式解法
 5.1 図式解法
  5.1.1 加速度-速度-変位の関係
  5.1.2 加速度-速度-変位図と角加速度-角速度-角変位図
  5.1.3 解法手順
  5.1.4 図式解法と公式との関係
 5.2 図示解法の具体例
  5.2.1 等速度運動の問題
  5.2.2 等加速度運動の問題
  5.2.3 等速度運動と等加速度運動を同時に扱う問題
  5.2.4 放物運動の問題
  5.2.5 等角速度運動と等角加速度運動(回転運動)の問題
 演習問題

第6章 ニュートンとオイラーの方程式を用いた運動方程式の立て方
 6.1 運動方程式の立て方の基本
 6.2 全ての力・全てのトルクの和の求め方
  6.2.1 1自由度問題
  6.2.2 2自由度問題
  6.2.3 3自由度問題およびそれ以上の多自由度問題
 6.3 運動方程式の立て方の具体例
  6.3.1 基本手順
  6.3.2 1自由度問題
  6.3.3 2自由度問題
  6.3.4 3自由度問題
  6.3.5 6自由度問題
 6.4 力加振と基礎加振
 演習問題

第7章 ラグランジュの方程式を用いた運動方程式の立て方
 7.1 ラグランジュの運動方程式の概要
  7.1.1 使用しやすく整理したラグランジュの運動方程式
  7.1.2 一般化座標
  7.1.3 一般化力
 7.2 運動方程式の立て方
  7.2.1 立て方の手順
  7.2.2 立て方の一例
  7.2.3 一般化座標とラグランジュの運動方程式
 7.3 運動方程式の立て方の具体例
  7.3.1 単振り子
  7.3.2 ぶらんこ
  7.3.3 ばね支持台車と振り子からなる振動系
  7.3.4 二重振子
  7.3.5 凹型剛体と円柱からなる振動系
  7.3.6 クレーンの旋回運動
 演習問題

第8章 固有値問題の解き方
 8.1 解き方の手順
 8.2 解き方の具体例
  8.2.1 概要
  8.2.2 1自由度問題
  8.2.3 2自由度問題
  8.2.4 3自由度問題
 演習問題

演習問題の解答

その他

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