感性工学とAI、VRへの応用

長町三生 監修

製品開発の現場に定着し活用されている「感性工学」と、大きく発展を遂げて実用化が進みつつあるAI(人工知能)、VR(バーチャルリアリティ)。これらを融合させてこれまでにない新しい製品を開発する手法を解説し、多様な分野での実例を紹介する。

書籍データ

発行年月 2021年10月
判型 A5
ページ数 224ページ
定価 2,750円(税込)
ISBNコード 978-4-303-72398-9

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概要

 医学部進学を考えていたが、経済的問題からそれに近い心理学に進学し、学習心理学(現在の認知心理学)を専攻した。その間、企業にも関心があり、従業員のモラール研究、管理者のリーダシップ研究など多くの論文を発表し、安全問題にも手を出していた。大学院時代に3年間医学部で勉強しその後工学部でも講義に出席して知識を広げた。心理学の博士号取得の作業も終了し、心理学科の助手採用が決定していたが、どうしても人間工学を研究したくて工学部助手に転向した。
 最初に手掛けたのが中国電力株式会社の依頼で、住宅街に設置してある電柱の柱上作業の安全を研究することになり、工学部内に生き線4本の電柱を立て心電図ほかの計測をしているうちに、電柱に昇降のため取りつけている足場くぎを、電柱の地上に近い部分から段々柱上に向かって間隔を短くすることを考え、改良の上再び実験をしたところ、作業者の緊張が緩和され安全にしかも楽に昇降することが可能になった。続いて、電柱上部の装柱が作業員の思いのままにできているのを、すべて道路に平行に装柱する設計へ改善したところ、作業性がよくなり電柱作業の事故が皆無になった。この形式は日本全国で採用されている。
 その後、ミシガン大学交通研究所で人間工学者として研究をする機会を得て、GMやFordを指導したり、デトロイドのコボホールで毎年開催される「全アメリカ自動車学会」で数回招待講演に招かれるほどになり、日本企業のレベルアップに貢献しなければ、との思いで1年間の滞在で切り上げて帰国した。直後に経済産業省から呼び出しがあり、日本の自動車産業を米国への輸出がもっと可能になるレベルへ強化するように協力依頼を受け、東京の自動車産業会館での毎月の会合に出席し、すべての自動車企業も指導することになった。
 この体験から、新製品開発にも興味を持ち、「誰でもできる効果的な商品開発技術」の開発研究を開始した。その関係から、自動車ばかりでなく船舶エンジン、冷蔵庫、ブラジャー、化粧品、住宅、ショベルカー、ホテルほか、業種を問わず依頼を受けた商品開発がすべて成功し、世の中に役立っている。
 感性工学という名称は、最初はマツダの山本健一社長(当時)がミシガン大学の講演でお使いになった名称であり、久しいお付き合いだったので「この名称を使わせてください」とお許しを得て、それ以降使用している。当初は「Emotional Engineering」の名称を使って国際会議で発表していたが、海外の友人たちが「“emotion”は意味範囲がとても狭い、君がしゃべっている内容はもっと広くて、日本語の感性(Kansei)を使うべきだ」とのアドバイスを受けた。現在、海外でも“Kansei Engineering”の名称が流行しており、研究も盛んである。
 これまでも感性工学の書籍を多く出版してきたが(海文堂出版ほか)、AIやVRの時代にふさわしく、私のグループも感性工学に関連したAI商品をかなり開発することができた段階なので、改めて「誰でも感性工学で開発が成功するシステム」とともに、感性を取り扱うAIやVRシステムの開発プロセスを公表することにした。
 長町グループは「感性工学」の実績では世界一である。成功した新製品も自動車、航空機、ブラジャーその他80種類程度になっており企業の後押しをしている。また感性工学がらみの人工知能研究もかなりの量が積み重なってきた。諸外国も感性工学に関心を持ち世界中で論文も増えてきたし、国家戦略として感性工学を強化している国もある。日本がこの世界で常に優位に立つために、我々のグループの研究資産を公開し、興味を抱いていただければ幸いである。(「はしがき」より)
監修 長町 三生

目次

第1章 感性工学とは、そしてAIとの関連性
  1.1 感性工学の効用と発展性
  1.2 感性工学とAIシステムの類似性
第2章 感性工学の仕組みと成功へのポイント
  2.1 感性工学のわかりやすい仕組み
  2.2 成功した開発事例
第3章 末梢血管粘弾性インデックスに基づく不快臭の感性モデリング
  3.1 嗅覚刺激―生体応答計測システム
  3.2 不快臭刺激提示実験
  3.3 まとめ
第4章 感性工学分析のAI手法
  4.1 ニューラルネットワークによる主成分分析
  4.2 自己組織化ニューラルネットワークによるクラスター分析
  4.3 PLS回帰分析
  4.4 ネーミング支援AI
  4.5 2次元FFT、感性画像認識マシーンと人間の感性プロセスの模倣(壁紙パターンの研究例)
第5章 ラフ集合モデルと商品開発への展開
  5.1 感性工学におけるラフ集合理論
  5.2 感性商品開発の知識発見のための感性ラフ集合モデル
  5.3 ラフ集合モデルの商品開発への展開
第6章 遺伝的アルゴリズムと自動車室内設計への応用
  6.1 遺伝的アルゴリズムを用いた感性工学ルールの生成
  6.2 FDTGAの学習アルゴリズム
  6.3 車室内快適性の分析への応用
  6.4 獲得された決定木からの考察
  6.5 まとめ
第7章 呉 お宝トリップ・ソーシャルメディア分析
  7.1 感性調査の実施と分析
  7.2 Twitterテキスト分析によるトレンド解析
  7.3 まとめ
第8章 3DCGとVRと感性工学
  8.1 自動車インストパネルの表面加工の感性質感分析、モデル化と感性
  8.2 庭の3DCG、VR
  8.3 室内照明環境のVRと感性評価
第9章 感性工学の介護への展開
  9.1 褥瘡発生の原因と褥瘡予防用マットレスの開発
  9.2 足首可動性VRリハビリゲームの開発と評価

プロフィール

【監修】
長町 三生(ながまち みつお)
昭和11年神戸に生まれる。昭和33年広島大学教育学部心理学科卒業、昭和38年文学博士。昭和39年助手、同43年助教授を経て、同53年広島大学工学部教授。平成7年広島大学地域共同研究センター長。平成8年国立呉工業高等専門学校校長。広島国際大学人間環境学部長、九州大学ユーザーサイエンス機構客員教授を経て、現在、広島大学名誉教授、広島国際大学名誉教授。感性工学、人間工学、安全工学、認知科学、労務管理を専攻。著書に『感性工学』『QCサークルの心理学』(海文堂出版)、『感性工学のおはなし』(日本規格協会)、『快適工場への挑戦』(日本プロダクトメンテナンス協会)、『中高年の能力開発と活性化』(日本能率協会)、『現代の人間工学』(朝倉書店)ほか多数。