ヒューマンファクターズのアプローチによる

患者安全

シドニー・デッカー 著
榎本晶/十亀洋 訳

安全とリスクに関する責任を現場の人たちだけに負わせるのではなく、リスクの発生源をシステム内部のあらゆる場所で探し続けることによって患者安全はつくり出すことができる。チームワークと協調、コミュニケーション、認知プロセス、組織、経済的・人的資源、技術と機器、政治情勢、職場の文化まで、多岐にわたって解説。

書籍データ

発行年月 2020年12月
判型 A5
ページ数 388ページ
定価 本体4,000円+税
ISBNコード 978-4-303-72997-4

amazon 7net

概要

 医療安全に社会の注目が集まるようになった1990年代から現在まで、世界中のさまざまな分野の研究者たちが患者と家族、またその関係者のため、そして医療従事者のために多様な視点から患者安全の実態把握と改善に向けた研究を行い、大きな成果をあげています。
 本書は硬膜外麻酔薬を静脈に点滴で入れてしまい死亡事故の主役とされた看護師の周囲では何が起きていたのかを縦糸にして進行します。横糸にはヒューマンエラーの研究対象が個人のパフォーマンスから組織・システムへと移ってきたこと、ニュートン、デカルトの還元的世界観が有害事象の調査分析や責任所在の推定に及ぼす影響、エラーの報告と調査方法など実践的なヒューマンファクターズ技法、医療を複雑システムとして取り扱うことの必然性などが述べられていきます。こうして、患者安全を推進するためには、医療界がニュートン流の還元主義から脱却して複雑性の理論に解決のヒントを求めるべきだという結論に至ります。
 我が国でも1999年の医療事故が大きな転回点となって多くの制度的改革が行われ、医療安全元年と呼ばれるようになりました。しかし本書に記されているように、医療という複雑なシステムにおける患者の安全が、医療関係者の努力のみならず人間工学、安全工学、産業心理学、認知心理学などさまざまな分野の専門家の英知、そして患者と家族、その関係者の協力のもとに推進されているかといえば、少なくとも現場の理解や実践面では緒に就いたばかりかもしれません。
(「訳者あとがき」より抜粋)

目次

第1章 医療の技術力と患者安全
 1.1 技術力は個人の徳性か、それともシステムの問題か?
 1.2 技術力の考えかたがなぜ違うのか?
 1.3 賢明な裁量と完璧さの追求
 1.4 標準化と、科学的・役所的な医療への恐れ
 1.5 完璧で当然vsミスは防げない
 1.6 本章のまとめ

第2章 医療における「ヒューマンエラー」という問題
 2.1 数の威力
 2.2 ヒューマンファクターズのアプローチ
 2.3 ヒューマンエラーを推定原因から調査の出発点に
 2.4 「やはり起きたか!」
 2.5 局所的合理性原理
 2.6 本章のまとめ

第3章 医療業務の認知的要因
 3.1 注意の活動性
 3.2 知識の要因
 3.3 戦略的要因
 3.4 本章のまとめ

第4章 新技術、自動化と患者安全
 4.1 代役の神話
 4.2 データ過剰
 4.3 自動化の驚き
 4.4 医療技術の評価と試験
 4.5 本章のまとめ

第5章 安全文化と組織のリスク
 5.1 安全文化と失敗に向かう漂流
 5.2 封じ込めるべきエネルギーとしてのリスク
 5.3 複雑性が生むリスク
 5.4 段階的に異常を容認していくことのリスク
 5.5 経営問題または制御問題としてのリスク
 5.6 本章のまとめ

第6章 安全をつくり上げるための実用的ツール
 6.1 安全報告と組織の学習
 6.2 有害事象の調査
 6.3 ヒューマンファクターズとリソースマネジメントの訓練
 6.4 ブリーフィングとチェックリスト
 6.5 本章のまとめ

第7章 説明責任と失敗からの学習
 7.1 学習することと説明責任:公正の文化
 7.2 医療ミスの犯罪化:深刻化する問題
 7.3 二次被害者
 7.4 本章のまとめ

第8章 患者安全の新分野:複雑性とシステム思考
 8.1 複合システムvs複雑システム
 8.2 ニュートン、構成要素、複雑性
 8.3 デカルト・ニュートン的世界観と有害事象
 8.4 本章のまとめ

プロフィール

Sidney Dekker(シドニー・デッカー)
オーストラリア連邦ブリスベン市のグリフィス大学教授、Safety Science Innovation Lab.所長、兼Art of Work主任研究員。
1969年オランダで生まれ、同国ナイメーヘンのラドバウド大学で組織心理学の修士学位を、同国ライデン大学で実験心理学修士学位を取得。その後、米国オハイオ州立大学でDavid Woodsの指導を受け、1996年に認知システム工学のPh.D.を取得。公共事業体や航空産業などいくつかの業務経験を経て、スウェーデンのルンド大学航空学部でヒューマンファクターズと航空安全の教授および研究ディレクターを務めた。2010年代早期に活動拠点をオーストラリアに移し現職。

榎本 晶(えのもと あき)
2007年 Middlesex University London大学院修士課程卒業
公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ・浦安市川医療センター手術室、聖徳大学看護学部看護学科を経て
現在 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科医療マネジメント学後期博士課程在学中、医療法人社団大坪会東和病院看護部長室付主任看護師

十亀 洋(そがめ ひろし)
1971年 東京大学工学部航空学科卒業
全日本空輸整備・運航・安全部門、航空輸送技術研究センターを経て
現在 放送大学教養学部在学中
所属学会など:日本人間工学会、日本航空技術協会、Flight Safety Foundation