海岸動物の生態学入門

―ベントスの多様性に学ぶ

日本ベントス学会 編

岩にくっついたり泥に潜ったり、水の底で生活している動植物がベントス。本書は多様性に富むこのベントスをおもな題材として動物生態学の基礎を解説。オールカラーの豊富な写真と図解、用語や基礎知識が理解できるBox、トピックや先進的な研究結果を紹介するコラム、生物たちの振る舞いとその意味を解説するマンガなど、工夫された構成で楽しく学べる。(日本ベントス学会創立30周年記念本)
[2022年6月、3版発行]

ベントス学会30周年記念本のテーマが公開されました。
ベントス学会30周年記念本編集委員会 有志によって制作され、 たいへん楽しい動画となっておりますので、ぜひ視聴してみてください。

※内容見本はこちら(容量を抑えるため解像度を低くしています)
※初版正誤表はこちら(2020年12月15日更新)
※2版における改訂内容はこちら
※3版における改訂内容はこちら
※クイズ(復習用の穴埋め問題)はこちら

書籍データ

発行年月 2020年9月
判型 A5
ページ数 256ページ
定価 1,980円(税込)
ISBNコード 978-4-303-80051-2

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概要

 ようこそ、『海岸動物の生態学入門』へ。本書は、「海岸のベントスをおもな題材として生態学を学ぶ」本です。ベントスって何?という疑問には第1章でお答えしますが、英語でbenthos、日本語では底生生物といい、岩にくっついたり泥に潜ったりと、水の底で生活しているすべての動植物を指しています。benthic(底生的)な生活、それはまさに「地に足をつけた」生きかたといえるでしょう。あれ?いま、「何だか泥臭くて地味な生き物だな」と思いました?いやいや、地に足をつけた生活をしていると環境からの影響を直接受けることが多く、生息環境に応じて生活も形態もさまざま、派手なのから地味なのまで、ベントスは実に多様性に富んでいます。
 本書は、日本ベントス学会の創立30周年を記念した出版物であり、学会に所属する中堅研究者が企画立案と編集を担当しました。大学院で生態学を学び、研究者となって、時に教壇に立つことになった私たちは、大学の新入生向け教科書にベントスがほとんど登場しないことに寂しい思いをしてきました。確かに、生態学のさまざまな理論は森林を中心とした陸上生態系での研究によって構築されてきましたし、我々人類が陸上生物である以上、海に暮らすものの生活を理解するのはなかなか難しい面もあります。しかし、忘れてはいませんか?生命が海で誕生したことを。生物と生物、生物と環境の間に起こる多くの事象は、海のなかにあるはずです。そこで本書では、できる限りベントスの事例をもって動物生態学の基礎的な理論を解説するようにしました。専門課程の大学生なら自力で、新入生は教員の助けを借りれば理解できる内容を目指しています。
(中略)
 本書では、最初にベントスと海洋環境について紹介した後で、個体のふるまいを規定する種とそれを生み出す進化のしくみ、個体の一生を扱う生活史、個体群、群集、生態系と、階層に応じて章を進めていき、最後に、利用や保全といった人間生活との関わりについても考えます。章を進める上でどうしても必要な用語や基礎知識をBoxに、章の内容に関わるトピックスや先進的な研究結果をコラムとしてまとめました。コラムには、日本ベントス学会の若手研究者が自らの最新研究をわかりやすく紹介しているものもあります。生物たちの振る舞いとその意味をハカセが解説するマンガもお楽しみください。本書を読まれたみなさんが、海岸に生きる動物たちの生き様やそれを決めている法則を解き明かす研究の仲間に加わってくださったら、こんなにうれしいことはありません。
(「はじめに」より抜粋)

目次

第1章 浜辺の環境とベントス
 1.1 海の環境
 1.2 海洋生物の生活様式の類型
 1.3 ベントスの多様性
 1.4 泳ぐベントス
 Box 1.1 潮位変動幅の地域差
 コラム1.1 泳ぐユムシの謎
 マンガ この本の…主役はベントス!

第2章 進化と種の多様性
 2.1 種とは
 2.2 種分化と種数
 2.3 生物地理
 2.4 適応進化
 Box 2.1 和名と学名
 Box 2.2 高次分類階級と単系統性
 コラム2.1 種は単系統と限らない
 コラム2.2 小さな種
 マンガ 種分化のプロセス

第3章 種内変異と種内関係
 3.1 種内変異
 3.2 小進化
 3.3 種内関係
 3.4 ゲーム理論
 3.5 情報のやりとり
 Box 3.1 タカ・ハトゲーム
 コラム3.1 経験がヤドカリのオス間闘争に及ぼす影響
 コラム3.2 複数の求愛シグナルを駆使したシオマネキ類の配偶行動
 マンガ さまざまな競争

第4章 ベントスの生活史
 4.1 生活史の進化
 4.2 生殖
 4.3 受精
 4.4 発生
 4.5 幼生の分散から着底まで
 4.6 性システム
 Box 4.1 サイズアドバンテージモデル
 コラム4.1 カキ類の性転換
 マンガ 子育てお悩み相談

第5章 ベントスを取り巻く種間関係
 5.1 種間関係のいろいろ
 5.2 種間競争
 5.3 捕食・被食関係
 5.4 寄生と共生
 5.5 間接効果
 コラム5.1 宿主を乗り回す寄生虫
 コラム5.2 共生二枚貝の宿主転換と多様化
 コラム5.3 巣穴を間借りしたいハゼたち
 コラム5.4 捕食と匂い、効くのはどちら?
 マンガ 『魚の獲りすぎでジャイアントケルプが消失!?』すごろく

第6章 個体群動態
 6.1 単一種の個体群動態
 6.2 2種の個体群動態
 6.3 その他の要因
 Box 6.1 PopulusとRによるシミュレーション
 マンガ メタ個体群ってなに?

第7章 生物群集とその特性
 7.1 群集とは
 7.2 群集の特性
 7.3 群集のパターンを生み出すプロセス
 7.4 プロセスの複合効果とスケール依存性
 Box 7.1 多様度指数
 Box 7.2 面積が広がると種数が増えるのはなぜ?
 Box 7.3 遷移
 コラム7.1 地震による津波がベントス群集に与えた影響
 コラム7.2 嵐と津波の被害はどちらが大きい!?
 マンガ 中規模攪乱仮説…ってなに?

第8章 生態系における物質とエネルギーの流れ
 8.1 食う食われる
 8.2 栄養段階と生態系ピラミッド
 8.3 有機物の生産と移動
 8.4 いろいろなエネルギー獲得様式
 8.5 ベントスを介した物質の流れ
 8.6 生物攪拌
 Box 8.1 ベントスのセルラーゼ
 Box 8.2 安定同位体比と脂肪酸分析による餌資源推定
 コラム8.1 アサリをめぐる窒素収支:火散布沼の例
 コラム8.2 外洋に面した砂浜海岸に生息するアナジャコ類
 マンガ ベントスの様々な底質改変作用

第9章 ベントスが支えるさまざまな生態系
 9.1 岩礁潮間帯:場所を巡る競争
 9.2 干潟:陸と海を巡る物質循環の窓口
 9.3 マングローブ林・塩性湿地:植物が形成するエコトーン
 9.4 サンゴ礁:ベントスによるすみ場所の提供
 9.5 海藻藻場:藻類が提供する餌とすみ場所
 9.6 海草藻場:根を張る植物が形成する林
 Box 9.1 潮汐と生物分布に基づく潮間帯区分
 Box 9.2 底質環境の測りかた
 コラム9.1 汽水域の生物生産性
 コラム9.2 マングローブ林は移動する
 コラム9.3 化学合成生態系
 マンガ 海と陸の間にある「動く生態系」~マングローブ林~

第10章 ベントスの保全と利用
 10.1 生態系サービス
 10.2 ベントスと水産
 10.3 生物多様性の危機
 10.4 地球規模の変動とアセスメント
 10.5 保全と利用にかかわる法令
 Box 10.1 レッドリスト
 コラム10.1 気候変動:藻場からサンゴ群集へ
 マンガ 生態系サービスのトレードオフ
 マンガ 海洋外来生物の導入手段

プロフィール

編集委員長
 山本智子(鹿児島大学水産学部)
編集委員
 伊谷行(高知大学教育学部)
 伊藤健二(農研機構農業環境変動研究センター)
 金谷弦(国立環境研究所)
 狩野泰則(東京大学大気海洋研究所)
 木村妙子(三重大学大学院生物資源学研究科)
 千葉晋(東京農業大学生物産業学部)
 宮本康(福井県里山里海湖研究所)
 和田哲(北海道大学大学院水産科学研究院)

その他

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