船長論

―引き継がれる海の精神

逸見真 著

船長職の何たるかについて、その職務・職責、指揮管理と教育、海難と法、そして、船長としての気質・気概、精神に関して詳述。将来、船員となり船長を目指そうとする学生、すでに航海士の職にある方、さらに、意欲旺盛なれど不安を払拭できないでいる駆け出しの船長の方々に、ぜひ読んでほしい。

書籍データ

発行年月 2018年10月
判型 A5上製
ページ数 368ページ
定価 本体3,600円+税
ISBNコード 978-4-303-21932-1

amazon 7net

概要

 本書は題名通り船長職の何たるかについて、特にその気質や心理、精神に関して論じたものであり、具体的な内容は私がこれまで船長という職業について常日頃、浅薄な経験、浅学菲才ながら重ねてきた思索を中心とする。従って船長資格の取得、操船理論やマネージメント、船舶管理や関連法規を解説するハウツー本ではない。
 本書において語られる船長像は、私の勤務した新和海運時代に乗り合わせまたお世話になった船長諸氏、海技大学校(現(独)海技教育機構 海技大学校)で同僚であった船長経験者、及び当時、水先教育に参加された元水先人の方々(何れも元船長)より受けた薫陶、そして自身の稚拙な船長経験を基として形成された。特に元水先人の方々による後進の指導を仰ぎ見る中、船長経験を基礎に置く職業人としての考え方や人間性より得られた学びと感銘が、本書の基部を支えている。
 しかし多くの先達らより如何様に感化されようとも、私如きの若輩の咀嚼を以て世に問う書籍を編めはしない。よって書中、幾多の船長や船員の経験、知識、知恵、一家言をお借りした他、本書の内容を検証するに際し、関連する諸学の専門家による識見を引用または参考にした。
 何よりも本書は将来、船員となり船長を目指そうとする学生や、既に航海士の職にある方に加えて、意欲旺盛なれど不安を払拭できないでいる駆け出しの船長の方々に読んでもらいたい。そして私の曲解、誤解を質して頂き、機会あれば議論させて頂きたいとも思う。
 また船員ではない方々にとり、船長は決して遠く見知らぬ存在になく、身近にいて不思議ではないことが理解頂けるよう、書いた積もりでもある。本書中の船長の一挙手一投足からは何かの手本として、また反面教師として学べるところが少なくないのではなかろうか。ご意見を賜れれば幸いこれに勝るものはない。
 海運企業(船主)、荷主、傭船者、旗国、そして国際社会からの要請に応え世界の海、港で昼夜を分かたず安全運航へ傾注されている船長諸氏に心より敬意を表し、現在、そして将来に活躍される船長、船員の皆様のご安航を祈念したい。(序章より抜粋)

目次

序章 知られざる船長
 1. 解題―船長の呼び名
  (1)captain
  (2)captainとmaster
  (3)船頭
 2. 国際海運と船員
  (1)海運という産業
  (2)国際海運による貢献
  (3)安全保障
  (4)海運実務における日本人船員の存在意義
 3. 船員稼業の人口への膾炙
  (1)船員の役割と知名度とのアンバランス
  (2)外国情報の伝達者
  (3)欧米に見る情報ツールとしての船乗りの役目
  (4)洋上での情報交換
  (5)真摯な日本人船員
 4. 海運と言語
  (1)国際海運の言語:英語
  (2)わが国の海事慣習
  (3)現代の海運実務における言葉
 5. 「船長論」とは
  (1)船と船長
  (2)船長論

第1章 職責の変遷
 1. 古代・中世
  (1)古代
  (2)中世
 2. 大航海時代の到来
  (1)大洋航海のもたらした問題
  (2)経度測定の実用化
  (3)船乗り稼業の疲弊
 3. 近代
  (1)船長への登竜門
  (2)権限の強大化
  (3)必要な権限
  (4)人権支配
 4. 航海術の発達の実相
  (1)航海海域の変化による影響
  (2)江戸時代の航海術
 5. 近代から現代へ
  (1)帆船と汽船との端境期
  (2)船舶運航の飛躍的な発展
  (3)権限の新たな展開
  (4)現在の職責

第2章 指揮管理と教育
 1. リーダーシップ
  (1)職務の培う気性
  (2)船頭のリーダーシップ
  (3)船長のリーダーシップ
  (4)船内融和
 2. 人格形成
  (1)規範意識と人格
  (2)教養
  (3)資格と人格評価
  (4)養成と評価
 3. 資質教育
  (1)実務教育と教条主義
  (2)船員稼業の性格と目標
  (3)旧商船大学学生寮
  (4)学生寮教育の功罪
  (5)教条教育は偏向教育か
 4. 経験により培われる能力
  (1)航海士としてのキャリア
  (2)実務を通しての成長
  (3)操船シミュレーション
  (4)判断力と直感力
  (5)操船のセンス
 5. 指揮管理の一側面:乗組員の懲戒
  (1)公平性
  (2)裁量
  (3)透明性
  (4)日本人による懲戒
  (5)船の上の懲戒の難しさ

第3章 海難と法
 1. 衝突
  (1)ニアミス
  (2)信頼と航海の基本
 2. 座礁
  (1)海平丸の座礁
  (2)船長と乗組員のレジリエンス
 3. 魔の潜む岸
  (1)船板一枚下
  (2)難破船・難船者の運命
 4. 船員の不当拘束・処罰
  (1)過失犯の処罰
  (2)不当拘束・処罰の事例
  (3)外国人船員処罰の不合理性
  (4)IMOによる船員保護のためのガイドラインの制定
 5. 法的な責任
  (1)公法の求める義務:船長の公権力
  (2)私法の求める義務:船主の代理人
  (3)公法と私法との交錯
 6. 航海における直行義務
  (1)直行の必要性
  (2)船長が仕える者
  (3)救助に赴くべきか否か
  (4)救助の実際
  (5)救助を阻む新たな問題
 7. 海難防止の取り組み
  (1)船の上の伝統的なチームワーク
  (2)BRM:ヒューマンファクターを考慮したチームワーク
  (3)ヒューマンエラーとBRM
  (4)日本語と日本的慣行
  (5)暗黙の協調による意思の疎通

第4章 気質と精神
 1. 船員気質
  (1)海に育まれる気質
  (2)海運企業の構成員
  (3)階層意識
  (4)乗組員混乗の理由
  (5)連帯意識
  (6)公平と中立
  (7)隠蔽
 2. 信心
  (1)伝統的な慣習
  (2)苦しい時の神頼み
  (3)運
  (4)孤独
  (5)精神主義という名の陥穽
 3. 適格性
  (1)求められる非常時の対応
  (2)セウォル号事件
  (3)脱船
 4. 殉職
  (1)常陸丸船長 富永清蔵
  (2)ウォルフ号上の富永船長
  (3)死
  (4)乗組員の精神的後遺症
  (5)平時の殉職
 5. 船員を待つ人々

第5章 新たなる針路
 1. 船員から海技者へ
  (1)船員の陸上志向
  (2)実務に支えられる海技
 2. 船員の出自の多様化
  (1)船乗りへの憧れ
  (2)船をどう意識するか
 3. 女性船長
  (1)女性船員採用に対するバイアス
  (2)女性の能力の活用
 4. 技術革新の代償
  (1)最新式航海計器への過信
  (2)海技への影響
  (3)自動化と自律化
  (4)船員のいなくなる日はくるか
 5. 日本人船員の本質
  (1)日本人船員と外国人船員
  (2)日本人の義理と規範意識
  (3)外国人船員の意識
 6. 自覚すべき責任
  (1)船長の責任
  (2)社会的責任の自覚

引用・参考文献
索引

プロフィール

逸見 真(へんみ しん)

東京海洋大学教授
一級海技士(航海)
博士(法学)

1985年3月 東京商船大学商船学部航海学科卒業
1985年9月 東京商船大学乗船実習科修了
2001年3月 筑波大学大学院経営・政策科学研究科企業法学専攻課程(修士課程)修了
2006年3月 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻課程企業法コース(博士課程)修了
      新和海運(株)船長を経て、
2009年4月~14年3月(独)海技大学校(現(独)海技教育機構)講師・助教授・准教授
2013年4月~14年3月 同校付属練習船 船長併任
2014年4月~17年3月 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科海洋工学系 教授
2017年4月より 東京海洋大学 学術研究院海事システム工学部門 教授
2015年6月より 一般財団法人 山縣記念財団 評議員
2016年6月~18年5月 公益社団法人 日本航海学会 理事
2018年6月 日本航海学会 副会長(2020年5月まで)