サブシー工学ハンドブック2

フローアシュアランスとシステムエンジニアリング

Yong Bai・Qiang Bai著/尾崎雅彦 監訳

サブシーシステムエンジニアリング/水力学/熱伝達と断熱/ハイドレート/ワックスとアスファルテン/腐食とスケール/浸食と砂の管理の各章からなる。

書籍データ

発行年月 2016年7月
判型 A5
ページ数 296ページ
定価 3,300円(税込)
ISBNコード 978-4-303-54002-9

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概要

 日本は、国際競争力のある海事産業を保有している。海は広くて大きくて、行ってみたい外国は遠い。水平方向のバリアを克服することの憧憬と実需が、この産業を発展維持させてきた原動力の一つであろう。一方で、同じ海洋での活動であるにも関わらず、今や世界の巨大産業となった海洋石油開発分野への参入は一部に限られてきた。こちらは、海水と地層という鉛直方向のバリアが克服すべき課題の一つである。身近に規模の大きな石油・ガス資源がなく、手を届かせたいという渇望感が全体に薄かった面はあるだろう。しかし2010年あたりを境に、日本の様々な企業が海外の海洋石油・ガス開発プロジェクトへの参入に高い関心を持つようになり、そのための技術者育成が早急に必要であると言われるようになった。日本周辺に膨大なポテンシャルがあると言われる新しい資源(深海底鉱物、メタンハイドレート、再生可能エネルギーなど)の開発の実現も、かなりの部分は海洋石油開発技術がベースになると考えられている。
 本書は、上述した鉛直方向バリアを克服する技術のうち、海洋開発に特有の海水中および海底上の部分、すなわち海上の有人施設と深海底の坑口施設をつなぐ「サブシーシステム」技術全般について、初級者向けに解説することを目的として著された『Subsea Engineering Handbook』(Yong Bai & Qiang Bai著、2012年初版発行)の日本語訳である。
 原著者も序文で述べているとおり、サブシーシステムに関して網羅的に解説された技術入門書は世界でもこれまでにあまり例がない。海洋石油開発の大水深化・大深度化・ハイテク化が世界中で進む中、技術者の裾野を広げるためには時宜に適した良書であると言える。しかしながら翻訳書出版のお話があった際、プロジェクトのほとんどが海外で行われるのだから、この分野の専門知識の取得ははじめから原著で行うのが適切ではないかとのご助言もあった。それはまことに一理ある。原著が900ページを超える大部であることも取り組みをためらわせた。しかし、ある分野への導入という大学の役割の視点を持つと、グローバル化の時代とは言え、母国語の教科書の意義はけっして低下しているわけではない。
 そこで編集方針としては、入門書に徹することにした。若干無理めであっても漢字交じりの表記を多用し、そこから意味や機能を思い出しやすくすることで、どんどん読み進めてもらうことによってサブシーシステムが全体としてどういうものか把握してもらうことを優先した。実務経験者には違和感のある表現もあるだろうが、一つの試みと思ってご容赦願いたい。ただし、そうは言っても日本語にしきれないカタカナ表記や英単語の頭文字短縮表記がなお多く含まれている。これらについては索引や略語集でできるだけ補うこととした。また、ささいなことであるが、多少なりとも手に持ちやすいよう、もともと1冊の原著を4分冊にし、ソフトカバーにした。
 将来、本書を久々に手にとった時に、中学校や高等学校時代の教科書をなつかしく見るような気持ちになるプロフェッショナルが、一人でも多く増えていることを願っている。(「監訳者まえがき」より抜粋)

目次

第12章 サブシーシステムエンジニアリング
 12.1 はじめに
 12.2 典型的なフローアシュアランスプロセス
 12.3 システム設計と操作性

第13章 水力学
 13.1 はじめに
 13.2 炭化水素の組成と物性
 13.3 エマルジョン
 13.4 相挙動
 13.5 炭化水素の流れ
 13.6 スラグと液体処理
 13.7 スラグキャッチャーの設計
 13.8 圧力サージ
 13.9 ラインのサイジング

第14章 熱伝達と断熱
 14.1 はじめに
 14.2 熱伝達の基礎
 14.3 U値
 14.4 定常熱伝達
 14.5 過渡的熱伝達
 14.6 熱管理方策と断熱
 付録:U値と冷却時間計算シート

第15章 ハイドレート
 15.1 はじめに
 15.2 物理と相挙動
 15.3 ハイドレート生成防止
 15.4 ハイドレート修復
 15.5 ハイドレート制御設計思想
 15.6 熱力学的ハイドレート抑制剤の回収

第16章 ワックスとアスファルテン
 16.1 はじめに
 16.2 ワックス
 16.3 ワックス管理
 16.4 ワックス修復
 16.5 アスファルテン
 16.6 アスファルテン制御設計の理念

第17章 腐食とスケール
 17.1 はじめに
 17.2 パイプラインの内部腐食
 17.3 パイプライン外部の腐食
 17.4 スケール

第18章 浸食と砂の管理
 18.1 はじめに
 18.2 浸食のメカニズム
 18.3 砂浸食の速度予測
 18.4 臨界速度
 18.5 浸食の管理
 18.6 砂の管理
 18.7 浸食速度の計算例

第1巻 「サブシー生産システム」
第3巻 「サブシー構造物と機器」
第4巻 「サブシーアンビリカル、ライザー、フローライン」

プロフィール

著者紹介
Yong Bai教授
 ヒューストンに本社のあるOffshore Pipelines & Risers社の社長であり、また浙江大学海洋工学研究センターのセンター長である。以前はノルウェーのスタヴァンゲル大学で教授として海洋構造物について教えていた。また、ABS(アメリカ船級協会)の海洋工学部門でマネージャー、DNV(ノルウェー船級協会)でJIP(業界共同プロジェクト)のプロジェクトマネージャーとして働いた経験を有する。
 Yong Bai教授はまた、Shell International E & P社でスタッフエンジニアとして働いた。JP Kenny社での先端技術のマネージャー、MCS社でのエンジニアリング担当副部長の時代には、海底パイプラインやライザーの設計・解析のための手法やツールの進歩に貢献した。著書に、「Marine Structural Design」および「Subsea Pipelines and Risers」があり、海底パイプラインやライザーに関する論文を100以上発表している。
 彼のOffshore Pipelines & Risers社は、ヒューストン、クアラルンプール、ハルビン、北京、上海に事務所を置き、パイプライン、ライザーや海底坑口装置、ツリー、マニホールド、PLET、PLEMなど、サブシー機器類の設計、解析、設置、エンジニアリング、一体管理を行っている。

Qiang Bai博士
 サブシーおよび海洋工学分野において、20年以上にわたる研究と実務の両面からの経験を有する。九州大学、UCLA、OPE社、JP Kenny社、Technip社で勤務したことがあり、フローアシュアランスに関するさまざまな状況や、サブシー機器・パイプライン・ライザーの設計・設置などを経験している。「Subsea Pipelines and Risers」の共著者でもある。
 
監訳者紹介
尾崎 雅彦(おざき まさひこ)
1955年、香川県に生まれる。
1983年、東京大学大学院工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了。工学博士。
1983年から2007年まで三菱重工業株式会社で海洋構造物・係留システム・水中線状構造物の動力学やCCS(CO2回収貯留技術)に関する研究開発に従事。
独立行政法人海洋研究開発機構・地球深部探査センター技術開発室を経て、2008年9月から東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。
 
訳者一覧(五十音順)
阿部 裕司: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋開発利用システム実現学寄附講座
大山 裕之: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・特任助教
尾崎 雅彦: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・教授
佐藤 徹: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・教授
柴沼 一樹: 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻・講師
鈴木 英之: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・教授
高木 健: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・教授
稗方 和夫: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻・准教授
平林 紳一郎: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・講師
巻 俊宏: 東京大学 生産技術研究所・准教授
正信 聡太郎: 海上技術安全研究所 海洋開発系 深海技術研究グループ・グループ長
満行 泰河: 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻・助教
宮崎 英剛: 海洋研究開発機構 地球深部探査センター 技術部・グループリーダー
山崎 泰之: 海洋研究開発機構 地球深部探査センター 技術部・技術主任
吉田 毅郎: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・特任研究員
和田 良太: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻・助教