Safety-Ⅰ& Safety-Ⅱ

―安全マネジメントの過去と未来

エリック・ホルナゲル 著
北村正晴(東北大学名誉教授)/小松原明哲(早稲田大学教授) 監訳

現代の社会技術システムで生じる事故やトラブルは、危険やリスクにつながる要因を取り除くという従来の方策(Safety-Ⅰ)だけでは避けきれない。「うまくいかなくなる可能性を持つこと」を取り除くのではなく、「うまくいくこと」の理由を調べ、それが起こる可能性を増大させる安全方策であるSafety-Ⅱの必要性を解説する。
[2019年10月、3刷発行]

書籍データ

発行年月 2015年11月
判型 A5
ページ数 216ページ
定価 2,970円(税込)
ISBNコード 978-4-303-72985-1

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概要

 「安全とはどのように定義されるべきなのだろうか」 という素朴な問いが、本書の出発点になっている。日常的には 「安全とは危険がないこと」 のように、望ましくないことの存在を否定する形で定義されることが多い。最近では 「リスク」 という概念を媒介にして、「安全とは受け入れられないような(高い)リスクがないこと」 のような定義も用いられているが、否定形であることは同様である。この定義からは、危険やリスクにつながる要因を除去していけば、高いレベルの安全が実現できるという考え方が導かれることになる。
 この考え方は直観的に自然であり、とくに疑問を持つ必要はないように思われる。実際に安全のレベルが低く事故が多発していた時代、また対象とするシステムが単純であった時代には、この考え方に沿った対策をとることで対象とするシステムの安全レベルは確実に向上した。しかし現代社会において、果たしてこの考え方は通用するだろうか? 事故はあるとはいえ、業務量と相対してみれば、その発生率は激減してきている。しかも一方では、対象とするシステムの複雑さは飛躍的に増大しているのである。現代社会の安全を考えるに際しては、これらの実態に目を向けてみることが必要である。
 製造、鉄道、航空、医療、金融など、現代のあらゆる実務分野は、コンピュータや通信に依存した複雑なシステムを用いて、時に(あるいは常に)生じる再現性のない状況においては人々が臨機に対応を取ることで、業務が進行している。このようなシステムは社会技術システムと名付けられている。本書の著者であるエリック・ホルナゲル(Erik Hollnagel)教授は、社会技術システムで生じる事故やトラブルは、危険やリスクにつながる要因を取り除くという従来の方策だけでは避けきれないことに目を向けた。それを彼は 「うまくいかなくなる可能性を持つこと(Things that might go wrong)」 を取り除くのではなく、「うまくいくこと(Things that go right)」 の理由を調べ、それが起こる可能性を増大させることと要約する。そして前者の安全方策をSafety-I、後者の安全方策をSafety-IIと定義し、現代社会でのSafety-IIの必要性を主張している。
 ホルナゲル教授はSafety-Iを否定はしていない。Safety-Iが必要なシステムは、現実には存在している。ただし、当たり前のことのように参照されているいくつかの考え方が、「神話」 ではないかという指摘(第4章)は注目に値しよう。因果律という考え方、ハインリッヒが提唱したとされる事故のピラミッド、ヒューマンエラーの扱い方、根本原因分析の陥りやすい罠などに関して示唆に富む考察が示されている。Safety-Iが適切になされるための留意事項の指摘としても重要である。(「監訳者まえがき」 より抜粋)

目次

第1章 論点
 1.1 必要性
 1.2 ダイナミックな無事象としての安全
 1.3 測定問題
 《第1章についてのコメント》

第2章 起源
 2.1 歴史
 2.2 安全の考え方の3つの時代
 2.3 安全であるかどうかをどのようにして知ることができるか
 《第2章についてのコメント》

第3章 現状
 3.1 安全の考え方
 3.2 うまくいく理由
 3.3 Safety-I: うまくいかないことを防ぐ
 3.4 Safety-I: 受動的安全マネジメント
 《第3章についてのコメント》

第4章 Safety-Iの神話
 4.1 因果律についての信条
 4.2 問題のピラミッド
 4.3 90%の解決(ヒューマンエラー)
 4.4 根本原因―最終的な答え
 4.5 その他の神話
 《第4章についてのコメント》

第5章 Safety-Iの脱構築
 5.1 安全の現象論,原因論,存在論
 5.2 Safety-Iの現象論
 5.3 Safety-Iの原因論
 5.4 Safety-Iの存在論
 《第5章についてのコメント》

第6章 変化の必要性
 6.1 開発率
 6.2 新しい境界
 6.3 扱いやすいシステムと扱いにくいシステム
 《第6章についてのコメント》

第7章 Safety-IIを構築する
 7.1 Safety-IIの存在論
 7.2 Safety-IIの原因論
 7.3 Safety-IIの現象論
 7.4 Safety-II: 物事がうまくいくことを保証する
 《第7章についてのコメント》

第8章 進むべき道
 8.1 Safety-IIの観点の影響
 8.2 うまくいっていることを探す
 8.3 安全のコスト,安全から得られる利益
 《第8章についてのコメント》

第9章 最終の考察
 9.1 分子と分母
 9.2 悪魔は細部に宿る?
 9.3 第2の物語vs他の物語
 9.4 何と名前をつけるべきか?
 9.5 Safety-IIIはあるのだろうか?
 9.6 安全解析から安全合成へ

 用語集
 索引

プロフィール

狩川大輔(国立研究開発法人電子航法研究所航空交通管理領域)
菅野太郎(東京大学大学院工学系研究科)
高橋 信(東北大学大学院工学研究科)
鳥居塚崇(日本大学生産工学部)
中西美和(慶應義塾大学理工学部)
松井裕子((株)原子力安全システム研究所社会システム研究所)

その他

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