モノづくりの創造性

―持続可能なコンパクト社会の実現に向けて

野口尚孝・井上勝雄 著

いわゆるデザイナーだけでなく、それぞれの持ち場で、社会に必要なモノやコトをつくり出している「生活者」とその家族に向けて、人間のモノづくりとそこに表れる創造性に関する歴史から始めて、問題解決としてのモノづくり思考、それを支援する知識運用方法について、デザイン実験などの具体例を採り上げながら述べる。

書籍データ

発行年月 2014年12月
判型 四六
ページ数 224ページ
定価 1,980円(税込)
ISBNコード 978-4-303-72727-7

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概要

 本書は、いわゆるデザイナーという職業の人たちだけではなく、ひろく「生活者」を対象に想定して書かれたモノづくりの創造性に関する本です。ここでいう「モノ」とはすべての人工物を意味し、「生活者」とは、家庭の主婦や、いわゆるコンシューマーだけではなく、社会のためにそれぞれの持ち場で、社会に必要なモノやコトを作り出すために働き、そして受け取った賃金で買った生活資料をそれぞれの暮らしの中で消費しながら生活を維持している人たちや、そういう生活者の家族(すでにリタイアしたその親たちや、高校や大学などで学ぶ学生たちなどすべて)を含む人たちです。

 しかし、「モノづくりの創造性」ということばから想像されるかも知れない家庭の主婦や趣味人のためのアイデア発想手引き書ではありません。もちろん実生活でのヒントやアイデア発想の手引きになることも本書の目的の一つですが、本当の目標はもっと先の世界にあります。それを一言でいえば、モノづくりの創造性を、もう一度生活者の手に取り戻そうということです。

 私たちの生活に溢れているモノたちは、いったい誰が考え、つくったモノなのでしょうか? 「クリエーティブなデザイン」とか「デザインの創造性」ということばは、特殊な技術や才能を持ったスペシャリストのためのものなのでしょうか? 生活者は、そうした人たちが生み出した商品をただ買うだけの「コンシューマー」なのでしょうか? メーカーから次々とモデルチェンジされ売り出される商品を買ってきて、それを並べるだけの生活はちっともクリエーティブではありません。そうかといって、ちょっと人と違う個性的なデザインの商品を買おうとすれば、とても高くて買えません。そればかりではありません。企業から有り余るほどにどんどんモノが生産され、どんどん販売され、どんどん消費される社会は、本当に持続可能な社会といえるのでしょうか?

 筆者(野口)は、長年デザイン教育と創造的思考支援の問題に取り組んできましたが、その過程で、本来あるべきデザインや創造性の姿についての思いと、現状のそれとの間にある大きなギャップにずっと疑問を抱き続けてきました。その結論が、上に掲げたスローガンなのです。デザイン能力や創造的思考力は、すべての生活者が持ちうる、そして持つべき能力であり、またそれを存分に発揮できる場がなければならないと思うのです。本当に持続可能な社会の実現のためには、そういう形で私たち自身の生活空間を築き上げねばならないのだと思うのです。

 本書は第1部で、人間のモノづくりとそこに表れる創造性とは何か、それはどのような歴史を経て今日に至っており、そこにどんな問題が含まれているのかについて述べ、その最後で次世代のモノづくりについてひとつの展望を述べています。

 続く第2部では、まず第6章でモノづくりにおける創造的思考の構造について述べ、創造的思考の仮説モデルが提示されます。その基調は「問題解決としてのモノづくり思考」ですが、ここで言う「問題解決」とは定形的な問題ではなく、デザイン思考がその典型であるような、創造的問題解決思考のことです。

 そして次に第7章では、そのような創造的問題解決思考を支援する知識運用方法について述べます。そこでは筆者(野口)が大学在職中に行ったいくつかのデザイン実験や発想支援システムの実験を具体的な題材として採り上げながら、さまざまな考え方について述べています。

 そのため、第2部は多少専門的で分かりにくい部分もあろうかと思われますが、それは大学在職当時、筆者には必ずしも「生活者のための創造性支援」という明確な視点がはっきりしていなかったためともいえるでしょう。しかし、そこに書かれている内容は、よく読んでいただければ、きっと生活者にとって創造性を高めるための手がかりやヒントが埋め込まれていると思います。

 そして第3部では、ふたたび生活者の創造性に関する実例や今後の展望について述べます。ここは第1部を受けて、最初にも言ったように、モノづくりの創造性を、もう一度生活者の手に取り戻すために、私たちがどのようなモノづくりの未来像を描くべきなのか、筆者がその未来像のデザインにおいて試行錯誤をしながら、まだ明確な答えが出せていないことを敢えて記しておきました。

 本書を読んだ若い学生や生活者の方々の中で、次世代のモノづくりとデザインの創造性についての議論が深まり、未来への大きな力が生まれていくことを密かに期待しております。(「はじめに」より)

目次

第1部 モノづくりにおける創造性―その歴史と未来

1 創造性ってなに?

2 人類の創造性はどこからきたのか?
   2-1 道具としてのモノづくり
   2-2 道具としての「モノづくり」がもたらしたもの

3 モノづくりの歴史と現在
   3-1 古代の歴史的文化遺産をつくった人々
   3-2 中世職人社会のモノづくり
   3-3 近代社会のモノづくりの特徴
   3-4 現代社会特有のモノづくりの登場

4 現代社会のモノづくり体制への批判
   4-1 現代社会におけるモノづくりの矛盾
   4-2 セルジュ・ラトゥーシュの主張
   4-3 ラトゥーシュへの疑問

5 次世代社会のモノづくり体制への展望
   5-1 生活者とは何か?
   5-2 次世代社会のアイデアスケッチ


第2部 創造的思考の世界

6 モノづくりにおけるデザイン思考の構造
   6-1 問題解決型デザイン思考
   6-2 「コトバをカタチに変換する思考」に関する実験と考察
   6-3 モノづくりデザイン思考の全体像

7 創造的思考支援のための知識運用法
   7-1 推論
   7-2 推論をもとにした創造的思考
   7-3 強制推論
   7-4 ひらめき
   7-5 「気づき」
   7-6 「よい試行錯誤」の支援
   7-7 まとめ


第3部 創造的生活のために

8 生活者の創造性とは?
   8-1 本来のモノづくりの創造性とは?
   8-2 生活者的発想

9 次世代社会の生活者の創造性を考える
   9-1 生活者による個の主張と共同体との関係について
   9-2 コンパクトな社会を目指す生活者の創造性
   9-3 生活者自身によるモノづくり創造力と美意識の表現

その他

◆ 読者から読後感を頂きました。ぜひ、一読ください。こちら