社会技術システムの安全分析

―FRAMガイドブック

エリック・ホルナゲル 著
小松原明哲 監訳
氏田博士/菅野太郎/狩川大輔/中西美和/松井裕子 訳

現代社会を支える交通輸送、生産、情報通信など、人と技術の組み合わせで構成される「社会技術システム」は大規模・複雑化する一方であり、ほんの小さな齟齬が大きな事故につながってしまう。本書が解説する「FRAM」は、そのような事態を回避し、安全を構築するための分析・評価ツールとして、現在、唯一の手法である。

書籍データ

発行年月 2013年5月
判型 A5
ページ数 184ページ
定価 本体2,800円+税
ISBNコード 978-4-303-72998-1

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概要

 およそ事故やトラブルといわれるものの形態を考えると、それには3つのタイプがありそうだ。
 何か一つ、具体的な原因があって、それが事故をもたらすもの。“電池が切れた→時計が止まった”というようなもの。トラブルを解決するには、その原因を突き止め、それを直せばよいもの。このとき原因にはその原因があって、さらにはその原因がある、という場合もありうる。たとえば、電池に寿命があることを知らなかった→電池の点検を怠った→電池が切れた→時計が止まった、というようにである。この原因-結果系列を将棋(ドミノ)倒しにたとえて、「ドミノモデル」とか「ドミノ型事故」などという。このドミノ倒しのどこかで手を打てば、トラブルは避けられると考えられる。RCA(root cause analysis:根本原因分析)といわれる事故分析の各手法は、この考えに立っている。
 次に、平素から安全意識が低く、仕事へのモチベーションも低い職場があったとする。そのときに、「給与引き下げ」という社長方針が示されたらどうだろう。「やってられないよ!」という気持ちとなり、職場のあちこちで脈絡なくトラブルが生じ出すのではないだろうか。ちょうど、体力が落ちている子どもたちの集団があって、そこにどこからともなくインフルエンザウイルスが忍び込んでくると、あれよあれよという間に蔓延し、学級閉鎖に追い込まれてしまうのに似ている。このタイプの事故では、職場の風土というようなものがそもそもの問題であり、そこにメスを入れなくては解決につながらない。そこでこれを「疫学的モデル」とか「疫学的事故」といっている。
 最後に、皆それぞれまじめに(レジリエントに)やってはいるのだが、それがうまく噛み合わないで事故になるもの。ボートのオールをそれぞれが勝手に漕ぎ回しているようなもので、ぜんぜん進まないか、下手をすると転覆してしまう。しかし(偶然にせよ)皆の息と力が合えば、ボートはスイスイ進むだろう。一人ひとりの人は、ボートを推進するための役割(機能)を担っているわけだが、その機能の組み合わせ、噛み合い次第で、事故にも優勝にも結果が転ぶ、つまり事故と成功は表裏にあるもの。そこで、このスタイルの事態を指して「機能共鳴」「機能共鳴モデル」などといい、起きた事故を「機能共鳴型事故」といっている。
 本書は、この3番目のタイプの事態を分析・評価するためにErik Hollnagel氏により開発された手法“FRAM(Functional Resonance Analysis Method)”のテキストである。
 現代社会は、社会技術システム(socio-technical system:交通輸送、生産、情報通信など、人と技術の組み合わせで構成される社会インフラともなるシステム)により支えられているが、それは大規模・複雑化する一方であり、ほんのちょっとした機能の噛み合いによっては、大きな事故にも至ってしまう。それを避けていくための分析・評価ツールとして、FRAMは現在、唯一の手法であり、大変期待されているものである。
 本書は、Erik Hollnagel氏による“FRAM:The Functional Resonance Analysis Method - Modelling Complex Socio-technical Systems”(Ashgate、2012)の翻訳書である。第1章から第4章まではFRAMの思想的な部分について、第5章から第8章まではFRAM分析の進め方について、そして第9章はケーススタディが述べられている。第10章と第11章は、全体のまとめも含めて若干の補足がなされている。哲学的な記述もあり、FRAMを難しく思われるかもしれないが、習うより慣れよである。たとえばチームで生じた行き違いなど、身近な事例を取り上げてFRAM分析を試みていただきたい。それにより機能共鳴型事故の意味と、FRAM分析の進め方がわかっていただけるものと思う。
 社会技術システムの安全で安定的なサービスの供給、そしてますます複雑化する現代社会の安全構築のために、本書がその一助となれば幸いである。(「あとがき」より)

目次

第1章 必要性
 1.1 (相対的に)無知な状態
 1.2 無知、複雑性および扱いにくさ
 1.3 システムの再定義
 1.4 確率から変動へ
 結論

第2章 知的背景
 2.1 直線的思考は自然である
 2.2 単純な直線的思考
 2.3 複雑な直線的思考
 2.4 動的システムと並列的な展開
 2.5 第2のサイバネティクス
 結論

第3章 原理
 3.1 失敗と成功の等価性
 3.2 だいたいの調整
 3.3 発現するということ(Emergence)
 3.4 共鳴(Resonance)
 結論

第4章 手法:導入
 4.1 何がうまくいくべきかを探す
 4.2 ステップ0:FRAM分析の目的を認識する

第5章 手法:「機能」を同定し、記述する(ステップ1)
 5.1 どうすれば機能を同定できるのか
 5.2 6つの側面
 5.3 機能の記述における問題

第6章 手法:変動の同定(ステップ2)
 6.1 種類の異なる機能の変動
 6.2 パフォーマンスの変動の表し方(表現型)

第7章 手法:変動の集約(ステップ3)
 7.1 機能の上流・下流間結合
 7.2 前提条件に関する上流・下流間結合
 7.3 資源や実行条件に関する上流・下流間結合
 7.4 制御に関する上流・下流間結合
 7.5 時間に関する上流・下流間結合
 7.6 入力に関する上流・下流間結合
 7.7 上流・下流間結合における課題

第8章 手法:分析の結果(ステップ4)
 8.1 排除、予防、防護、そして促進
 8.2 モニタリング(パフォーマンス指標)
 8.3 抑制
 8.4 定量化についてはどうか

第9章 ケーススタディ
 9.1 「Duk i buk」(腹部のスポンジ)
 9.2 カーフェリー“Herald of Free Enterprise号”の惨事
 9.3 金融システム

第10章 補足
 10.1 FRAM:手法であってモデルではない
 10.2 強力なモデルに依存する手法
 10.3 連結式モデルか、連結式手法か
 10.4 尺度不変

第11章 FRAMをFRAMする