いろは丸事件と竜馬

―史実と伝説のはざま

鈴木邦裕 著

慶応3年4月23日深夜、坂本竜馬が大洲藩から借り受けて航行していた「いろは丸」が、紀州藩所有「明光丸」と備後灘で衝突して沈没。世に言う「いろは丸事件」であるが、今年4月、新事実を含む第一級の資料であるいろは丸の売買契約書が公表された。本書はこの新資料を含む様々な文献を基に、海難事故調査、海難審判の補佐人を業としている著者が、いろは丸事件を見直し、その真実を探る。なんと、竜馬は...!?

書籍データ

発行年月 2010年12月
判型 A5
ページ数 292ページ
定価 2,178円(税込)
ISBNコード 978-4-303-63433-9

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概要

 慶応三年四月二十三日(1867年5月26日)深夜のことであった。
 紀州藩所有の蒸気船明光丸と坂本竜馬が大洲藩から借受けて航行していた蒸気船いろは丸の両船が瀬戸内海備後灘東口六島付近で衝突し、いろは丸が沈没した。
 世にいう、いろは丸事件である。
 この事件発生から百四十三年が経過した平成二十二年四月、いろは丸の売買契約書が愛媛県大洲市の歴史探訪館で公表された。
 公表された売買契約書は、いろは丸が大洲藩に帰属する経緯についての従来の通説を覆す第一級の一次資料で、いろは丸事件について記述している全ての諸書、刊行物の内容を書き改めなければならない程の驚くべき新事実が含まれている。
 これは葡萄牙(ポルトガル)語で書かれており、いろは丸の売手は、阿蘭陀(オランダ)人のボードインではなく、葡萄牙人だったのである。
 この契約書の翻訳者は東京大学史料編纂所の岡美穂子助教である。
 いろは丸は沈没したが、その十一ヶ月前にも坂本竜馬の亀山社中の者が幾人か乗り組んでいたワイル・ウエフ号が五島中通島潮合埼で乗揚げ全損になっている。
 この遭難では乗員十二人が溺死しているが、いろは丸事件では乗組員三人が火傷を負っただけで、その他の乗員、乗客は無事であった。
 ワイル・ウエフ号の遭難はいろは丸事件よりも重大性が高いのである。
 両事件を考えると、竜馬らの亀山社中、海援隊の人材(船員)派遣業、船舶運航管理部門は完全な失敗だった。
 私は、海難事故調査、海難審判の補佐人を業としている者であるが、このいろは丸売買契約書を初見して、いろは丸、ワイル・ウエフ号両船の事故を見直してみようと試みたのが本稿である。両船の海難に関する限り、竜馬を称える話が実に他愛のないものであり、いわゆる伝説の域を出ない講談話の多いことがお分かりいただけると思う。(「はじめに」より抜粋)

目次

第1章 序
 竜馬語録
 船中八策
 船中八義 新政府綱領八策
 いろは丸事件の概要と当時の社会情勢

第2章 ワイル・ウエフ号の遭難
 難船までの経緯
 救助の模様
 ワイル・ウエフ号難船と『竜馬がゆく(六)』

第3章 海援隊
 海援隊の概要といろは丸事件関係者のこと
 海援隊約規
 海援隊の主な隊士
 いろは丸事件と主な登場人物

第4章 伊呂波丸事件と文献の評価
 南紀徳川史巻三十三の項
 維新土佐勤王史
 平尾道雄著 坂本龍馬海援隊始末
 伊呂波丸売買契約書(個人蔵)
 大洲藩史料(藩主加藤家蔵、天の巻)
 豊川渉のいろは丸終始顛末
 井上将策の記録

第5章 伊呂波丸事件における主要事実の認定
 両船の主な乗組員
 両船の明細
 両船履歴

第6章 事実の経過

第7章 争点の指摘
 紀州土州両者の相互に矛盾する主張
 伊呂波丸沈没地点
 衝突地点
 当時の海図
 衝突時刻・沈没時刻
 明光丸の速力
 伊呂波丸の速力

第8章 史実と『竜馬がゆく』の矛盾
 大洲藩は竜馬の勧めで伊呂波丸を購入したとのこと
 二隻の西洋船を持っているのは海援隊しかないであろうということ
 伊呂波丸の船名は竜馬が命名したということ
 伊呂波丸の売主がボードインであるということ
 竜馬が船長であったということ
 坂本ら土州側が日本有数の万国公法に実務的な知識をもっていたということ
 事故当時は霧中であったということ
 佐柳が航海長で水戸浪士だということ
 航海日誌のこと
 鉄砲、弾薬を数多く積んでいたということ
 高柳明光丸船長の経歴のこと
 衝突時、明光丸に当直士官がいなかったとの非難のこと
 沈没前に在船していた伊呂波丸の乗組員が汽笛を鳴らしたということ
 伊呂波丸沈没時、讃岐箱崎の岬の上に片鎌の月がのぼっているということ
 沈没時に伊呂波丸の乗組員が海に飛び込み明光丸に泳いできたということ
 英国艦長が「残念ながら、紀州藩は有利ではない。」といったということ
 岡本覚十郎、竜馬襲撃のこと
 賠償金のこと

第9章 事実認定の試み、両船の運動からみた衝突状況
 右斜め前方45度から衝突した場合
 直角に衝突した場合
 右斜め後方から衝突した場合
 斜め前方45度で衝突した場合の両船航跡
 直角に衝突した場合の両船航跡
 右斜め後方から衝突した場合の両船航跡
 両船接近模様の総括 ―規則がなければどうするか―

第10章 過失の軽重
 両船関係
 伊呂波丸の舷灯が不点灯であった場合の過失の軽重
 明光丸の士官が甲板上に居なかった場合の評価
 二度目の衝突の評価

伊呂波丸事件についての結論

補説1 水主のこと
補説2 海上信仰 観世音菩薩
補説3 船長の由来
補説4 海里とは
補説5 速力のこと
補説6 針路のこと
補説7 衝突針路
補説8 英国艦長の高柳明光丸船将に対する回答全文
補説9 ブルック海尉の日記
補説10 海図上での距離測定
補説11 旧暦グレゴリオ暦対照表