Linux情報戦略

―考えかたとテクニック

澤田秀樹 著

ITが成熟期を迎えつつある現在、「自分の情報は自分で管理」できることが重要である。本書は著者の長年にわたるLinuxサーバの管理・運用経験をもとに、コンピュータシステムとネットワークを「戦略的」に運用するための考えかた、前提となる知識、実際の運用ノウハウを、コンパクトに解説する。

書籍データ

発行年月 2009年5月
判型 A5
ページ数 160ページ
定価 本体2,000円+税
ISBNコード 978-4-303-73469-5

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概要

およそ5500年前にシュメール人が初めて文字を使用するようになってから20世紀までは、印刷ないしそれに準ずる形で視覚的に直接読むことのできる「文字情報」が我々のおもな知識基盤であった。紙や竹、板に書かれ、石や粘土版に刻まれたこれらの文字は、数千年間にわたってほとんど劣化することなく情報を伝えてくれることが実証されている。

コンピュータとネットワーク関連技術の急速な進展により、世界の政治経済の流れはアメリカ合衆国を先頭に、「電子情報」を紙を媒体とする「文字情報」に代わるものとして、社会経済活動の正式な知識基盤とする方向へと進んだ。シュメール人以来の書かれた文字に基づく文明を「文字文明」と呼ぶならば、現在我々が経済的効率以外のことはよく考えることもなく突き進んでいるこの未来は旧来の「文字文明」とはまったく異質で断絶した、新大陸発の「電子文明」と呼ぶべきものであろう。

残念ながらこの「電子文明」には、古来「文字文明」がその文字や書籍を先進諸国から周辺諸国へ著作権や特許権にこだわることなく広めたおおらかさも、それへ参加するための教育の仕組みも、一部の国を除いて十分に備わってはいない。「文字文明」にはすでに長年工夫して確立された義務教育制度があって、その恩恵に与れれば「文字情報」を自由に扱えるようになっている。しかし読み書きが普通にできる人にとっても、現在流通している家電製品としては未完成でそのうえ改廃著しいコンピュータとネットワーク関連機器をその能力をわきまえて安全に取り扱うことは、体系的な教育と訓練を継続的に受けない限り難しいものといえる。

このことの持つ意味はあまりにも深刻である。歴史を眺めても情報や文字使用技術を独占する階級がつねに社会の上位にあり、また入り組んだ情報伝達制度や複雑な文字体系を持つ民族ほど独裁的な政権を持つことが多いからだ。つまり、これからは電子情報の取り扱いに習熟している者や組織ほど、そうでない人々に対して有利になるということである。独裁的な政権が経済力と情報技術を駆使して、生活の隅々をモニタし一人一人の行動から遺伝子情報までも記録し監視する装置を作り上げてしまえば、もはやその政権を交代させることは相当の犠牲を覚悟しない限りは不可能になるだろう。テロとの戦いを名分として開発導入されている監視技術は、いつでもそれ以外の事柄に転用可能である。電子情報技術を独裁体制や複雑な制度を温存する道具にしてはいけない。

独裁的でもなく無秩序でもない、政府と国民や企業の力関係が微妙に釣り合っている場所に、引き続きこの「電子文明」を築くためには、より多くの市民がコンピュータとその関連技術についての理解を深め、自分の情報は自分で管理できるようになる必要がある。本書は、Unix互換OSであるLinuxサーバの管理やWindows端末の運用を通して筆者がこれまで数年間にわたって書きためた管理運用メモに共通する「概念」を、コンピュータシステムとネットワークの構造的把握に基づく戦略的運用を目指してまとめたものである。第3章で詳しく述べるように、ここでいう戦略的ないし情報戦略とは情報の収集解析、秘匿、独占、公開などの主導権を握ることにより自己の目的に合わせて情報を管理し、あらかじめ策定した目標に向かって、その情報の受け手が自らの意志で決定し行動するように、計画し実行することであると理解している。情報システムの戦略的運用には当然、情報の漏洩やシステムへの侵入などが起こらないように安全対策を施さなければならない。しかし公開と秘匿、利便性と安全性といった対立する要求の双方を満たす完全な解はあるのだろうか。情報システムを構造的に把握する努力のなかで筆者は、対立するものの統合を目指す場合には効用保存の法則ともいうべき壁が存在し、「まったく安全で本当に便利」といったシステムの構築は困難だと考えるようになった。この場合の最適解は必要最小限度の機能と設定を日々粛々と監視し更新する中にこそある。

本書の構成は前半の第1章「コンピュータの論理的構造」、第2章「ネットワークの論理的構造」、第3章「IT革命と情報戦略」が論理に重点を置いた内容であり、後半の第4章「システムの設定と管理」、第5章「学習管理システムの導入」はその実践編となっている。前半の3章は実践編に対する動機付けともいえるもので、あまり細部にとらわれずにお読みいただければ幸いである。(「はじめに」より)

目次

第1章 コンピュータの論理的構造
      1.1 チューリング機械とチャーチの提唱
      1.2 計算不能問題
      1.3 多項式時間と指数時間
      1.4 非決定性計算モデル
      1.5 NP完全性
      1.6 現代暗号の仕組みと安全性の根拠

第2章 ネットワークの論理的構造
      2.1 TCP/IP
      2.2 UDP
      2.3 LANとインターネット
      2.4 パケット解析
      2.5 HTTPとSMTP
      2.6 ポートスキャン

第3章 IT革命と情報戦略
      3.1 IT革命
      3.2 情報戦略
      3.3 効用保存の法則
      3.4 対立する2つの要素の平衡

第4章 システムの設定と管理
      4.1 インストールの前に
      4.2 不要なサービスの停止とアクセス制限
      4.3 パッケージのアップデートと追加
      4.4 時刻の同期
      4.5 ユーザ環境の整備
      4.6 メールサーバとクライアントの設定
      4.7 セキュリティツールの導入
      4.8 日常の管理
      4.9 Tips

第5章 学習管理システムの導入
      5.1 Webサーバの設定
      5.2 ログ解析ソフトのインストール
      5.3 Moodleのインストール
      5.4 ウイルス対策ソフトの導入