日本商船・船名考

松井邦夫 著・画

明治期から太平洋戦争中までに活躍した日本の海運会社31社を対象に、商船の船名について、その由来や由縁、命名の傾向を考究。船にまつわるエピソードも併記。また、総トン数、建造年月日・場所その他のデータの一覧表(収録船舶2000超)、著者の筆による商船の挿し絵(約100点)を掲載。
[2006年10月、2版発行]

書籍データ

発行年月 2006年8月
判型 A5上製
ページ数 368ページ
定価 本体3,500円+税
ISBNコード 978-4-303-12330-7

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概要

 国土交通省の公表によると、周囲の長さが100メートル以上の陸地を『島』とすれば、わが国は6852の島嶼により構成されている。その内訳は、「本土」と呼ばれる五島(本州、北海道、四国、九州および沖縄本島)を除く6847島が離島であり、これらのうち離島振興法による振興対策実施地域に含まれている260島を加え413の島に人が住んでいるという。
 このように、古来より四方を海に囲まれた特異な地形を持つわが国にあって、海を渡り、海の恩恵を受け、海を支配する知恵は、国家、国民の生存に欠かせない絶対的基盤であり、島、海、船、舟人は、未来永劫にわたり係わり続ける、欠かすことのできない条件である。
 そのうち、舟、船について、日本の歴史を振り返ると、時代の転換期には必ず舟が果たした、あるいは果たし損なった役割が記録されている。もともと日本の文化は弥生時代以来、大陸からの影響の下で開花してきているが、当然、それらの導入は舟と舟人の手による。この外来文化はわが国成長の母体となったが、同時に海へ乗り出す機運を醸成した。遣唐使船などの造船と運航の古史がそれらを物語っている。また国内における特徴的な史記に水軍による壇の浦合戦の時代がある。わが国の封建制確立への転換期といわれるが、舟が舟人にとって、逃げ場のない戦場となった典型的な歴史であろう。
 このような過去は、わが国が島国である以上、当然現代に引き継がれている。エネルギーをはじめ資源の大部分を海上輸送に頼らなければ成り立たない立国条件は、高度成長の過程で一層顕著となり、海運、船舶、船員の重要性も高まることとなるが、しかし日本人の海や船に対する関心は低下の一途を辿っているように思われる。その傾向は、祝日となった「海の日」の存在感に見ることができよう。同じ条件下にある西欧諸国と比して、格段に低いのは何故なのであろうか。
 この度、私共など海技者集団の側の啓蒙努力の不足への警鐘として、わが協会の名誉会員・松井邦夫さんが、船の名前に注目する立場から、幕末時代~明治・大正・昭和~敗戦へと至る約一世紀の、船、船社、海運業、国家の政策や制約などに広範に連なる『日本商船・船名考』を上梓されることとなった。日本の海事史に対する学問としての水準は、学究者各位のご努力により向上を示しているが、船の名前をKeyに縦横自在に資料を掘り起こし独自に分析し、その集積を披露する松井さんの切り口は、他に類を見ないものと思われる。また資料の分類や挿し絵の緻密さも、前書『日本・油槽船列伝』で実証済みである。
 本書は、書き下ろしではない。私共の機関誌「全船協(季刊)」の1989年春季号以来2006年春季号まで、会員に感銘を与え続け17年間、一度たりとも休稿することなく連載された55編を基とし、序章を加え、一部加筆訂正、さらに資料引用なども整理したものである。
 言うまでもないが、船も人と同様に祝われて生まれ、千差万別の生涯を閉じるが、歴史としては連綿と繋がっている。所有船社名を失念しても、船名が歴史を物語ってくれる。私は職務の関係で、1960年以降、自動化船「金華山丸」をはじめMゼロ船、コンテナ船、VLCC、さらに近代化船などと、船舶の技術革新の進展過程で、多くの日本船舶の誕生から消滅に立ち会ってきた。その中には、生涯忘れ得ないドラマティックな一生を刻んだ船の名も数多い。
 その観点から読み解くと、松井さんが記録し続けた一世紀にわたり、船の名が歴史に刻まれたのは悲惨な最期のケースが比較的多い。忽然と無窮の彼方に消えてしまう。調査・分析し取りまとめたこの時代の特徴は、日本国船舶が国家近代化への成長過程で果たした過酷な役割と、国家と共に戦火に潰えた禍根と捉えればいいのであろうか。
 しかし、現代はこれらと様相を変えて、「丸」が船の名前から消えていっている。わが国の船籍を有する船なのか否か、私共でさえ分からなくなった。国と船、国と舟人についての有意義な関わりが消えてしまって、やがて日本人は、貿易のフィールドとしての海洋を人生の中から忘却し去ってはしまわないであろうか。(全日本船舶職員協会 会長・川村 赳「はじめに」より)

目次

[序章] (日本丸=挿絵掲載船、以下同じ)
[第1章] 日本郵船(土佐丸、氷川丸、浅間丸、鎌倉丸、能登丸、讃岐丸II、山城丸II、長崎丸、妙高丸、新田丸、高島丸)
[第2章] 大阪商船(筑後川丸、たこま丸、高砂丸、あるぜんちな丸、白陽丸、白龍丸、攝津丸)
[第3章] 三井船舶(秀吉丸、御室山丸、綾戸山丸、摩耶山丸)
[第4章] 山下汽船(喜佐方丸、日本丸、国洋丸、山彦丸、山幸丸)
[第5章] 川崎汽船(來福丸、晩香坡丸、建川丸、聖川丸、菊川丸、阿蘇川丸)
[第6章] 辰馬汽船・新日本汽船(悠紀丸、白鹿丸、地領丸、辰春丸、辰洋丸)
[第7章] 国際汽船(霧島丸、小牧丸)
[第8章] 大同海運(高栄丸、春天丸、太平丸)
[第9章] 東洋汽船(天洋丸、紀洋丸、善洋丸、信洋丸)
[第10章] 日之出汽船(勢州丸、八幡丸)
[第11章] 東洋海運(球磨川丸、富士川丸)
[第12章] 北日本汽船(大禮丸、北昭丸、月山丸、白海丸)
[第13章] 日本海汽船(気比丸、射水丸、白山丸)
[第14章] 南洋海運・東京船舶(浄宝縷丸、日昌丸)
[第15章] 三菱商事・三菱汽船・三菱海運(若松丸、さんぢゑご丸、ぱれんばん丸、光島丸)
[第16章] 栗林商船(神祐丸、神武丸、神祥丸、神悦丸)
[第17章] 飯野海運(第1鷹取丸、東亜丸、極東丸、日南丸)
[第18章] 日清汽船・東亜海運(岳陽丸、洛陽丸、興東丸)
[第19章] 岸本汽船・岸本商会(神州丸、神天丸II)
[第20章] 乾合名・乾汽船(乾坤丸、さばん丸)
[第21章] 八馬汽船(多聞丸II、多聞丸III)
[第22章] 岡崎汽船・岡崎本店汽船部・日豊海運(日英丸、日京丸)
[第23章] 広海家・広海商事・広海汽船(加州丸、広隆丸)
[第24章] 嶋谷汽船(浦戸丸、昌宝丸II)
[第25章] 太洋海運(大仁丸)
[第26章] 明治海運(明海丸、明天丸)
[第27章] 大連汽船・東邦海運(満州丸、大連丸、濱江丸)
[第28章] 日産汽船(日海丸、日鉄丸、日ぎょく丸)
[第29章] 内田汽船(彦山丸、大圖丸、大海丸II)
[第30章] 澤山汽船(第2東洋丸、東洋丸)
[第31章] 玉井商船(新玉丸、国玉丸)
[終章]