感性工学シリーズ1

商品開発と感性

長町三生 編
執筆者:石原茂和/西野達夫/松原行宏/土屋敏夫/神田太樹/井上勝雄

日本発信の感性工学が、世界中で理解され活用されつつある。本書は、最近10年間の感性製品の事例を中心に、感性の測定や感性から設計へ至る過程および統計手法の使いかたなどをわかりやすく記述した。また新しい手法である「ラフ集合論」の感性工学への応用についても、多くのページを割いている。

書籍データ

発行年月 2005年6月
判型 A5
ページ数 260ページ
定価 本体2,800円+税
ISBNコード 978-4-303-72391-0

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概要

 新製品開発には「プロダクトアウト(Product-out)」と「マーケットイン(Market-in)」という2つの考えかたがあり、前者は自社が保有する優れた技術を製品化して社会に提供する考えかたであり、後者は生活者(消費者)が持つニーズや要求を掘り起こしてそれを製品化する考えかたである。どちらも有用な方法であり、とくに技術進歩が急速であった時代には、新技術が盛り込まれた新製品の恩恵に与かって生活者は高度な文明生活を享受してきた。ところが一般の電気製品を含めて、自動車、エアコン、パソコンなどが1家庭に1台以上普及する今日になると、モノ余りのために生活者に新しく購入する意欲が薄れてきた。新技術のブレークスルーが生まれない限り、また特段のヒット商品が誕生しない限り、生活者は冷めてくる。そのうえ、生活者の目は肥えて賢くなってきており、彼らは自分たちのニーズに合わないモノには見向きもしない。逆に、新技術の開発に関しても、生活者のニーズをそそるような新しいタイプの技術が生まれることを生活者は望んでいる。それが「感性」である。「こんなものが欲しい」「こんなことができるなら」「こんな感じに自分を引き立てたい」などの感性が主流を占めており、意識するとしないにかかわらず、生活者の感性に触れた商品だけがよく売れるようになり、また現実に売れている。
 もともと感性や情緒は曖昧であって科学に馴染まないので、これまで学問として感性を取り扱うことをしなかった。しかし感性という曖昧な特性も数値化できることがわかった。たとえば興味あるものを見たときにその人の目は興味あるものに固着する時間が長くなり、瞳孔は広めになる。ものを見て感動するときには、つい声が大きくなるし周波数も高くなる。口に入れた食べ物の味を期待以上だと感じたとき、人は「美味しい!」と叫ぶ。新製品の車を見るときに、将来のユーザーは車の外観をなでるように眺め、そのあとで運転席に入る。この動作は、車のデザインでは第1に外観設計に力を入れ、次にダッシュボードを詳細に設計すべきことを教えてくれている。このように、生活者の感性はいろいろな角度から測定できるし、彼らの動作から設計要素のどれが重要かを理解することができる。生活者の感性を的確に把握しそれを数値化することで、生活者の気持ちにマッチし魅力を感じさせる設計をする技術、これを感性工学(Kansei Engineering)といい、日本発信の新製品開発技術である。
 生活者はシンプルで使いやすいものを望む。誰にでも使いやすく設計することをユニバーサルデザインといい、今日の標準的な考えかたになっている。感性工学は誰でも使いやすい製品の設計も含めて、魅力的で売れる製品づくりを目指す。したがって、感性工学を利用して開発された新製品は市場でヒットすることが多く、その分野のトレンドを創造することがよくある。それというのも、感性工学の技術でユーザーとなる人々の感性を的確に把握して、それを設計に移しかえるからである。つまり、感性工学は顧客満足(Consumer Satisfaction:CS)を目標とする。
 感性工学は、高齢者に使いやすくて生活を支援することを目的とする「福祉用具」の開発にも活用できる。高齢者の機能上の課題を把握し、かつ高齢者の感性や希望を数値化して、それを福祉用具に移しかえることができるからである。感性工学のこのような利点は世界中で理解されつつあり、いまやKansei Engineeringとして感性工学が英語になっており、最近は外国の企業から指導を依頼されるようになった。その中にはGeneral MotorsやJohnson & Johnsonなどの大企業も含まれる。スウェーデンのBT社では新製品のフォークリフトを開発することができたし、航空機製造のBoeing社でも感性工学が活用されている。
 そして興味あることに、感性を生み出す大脳過程や大脳内の場所についても研究され予見されようとしていて、それは「クォリア」と名づけられている。感性は人間工学、感性工学、工学、コンピュータサイエンス、大脳生理学その他の科学から解明されようとしており、ますます面白くなってきた。
 日本発信の感性工学が、ここに述べたように、世界中で理解され活用されつつある。日本企業にも大いにこの新しい顧客中心の技術を導入され、顧客が喜ぶ製品開発で国際的に最先端に立ち、世界からますます賞賛されるように期待したい。
 本書は、最近10年間の感性製品の事例を中心に、感性の測定や感性から設計へ至る過程および統計手法の使いかたなどをわかりやすく記述した。また新しい手法である「ラフ集合論」の感性工学への応用についても、多くのページを割いている。(「はじめに」より)

目次

1章 感性とは何か
 [1.1]感性とは
 [1.2]感性の定義
 [1.3]感性工学とは
 [1.4]感性の捉えかた
2章 使いやすさと感性工学
 [2.1]使いやすさとは
 [2.2]使いよさの条件
3章 感性から設計へ
 [3.1]感性工学タイプA
 [3.2]感性工学タイプAの事例
 [3.3]感性工学タイプB
4章 感性工学の方法論
 [4.1]ゼロ次感性コンセプトの作りかた
 [4.2]カテゴリー分類法
 [4.3]感性工学システム
 [4.4]ハイブリッド感性工学システム
 [4.5]感性数理モデル
 [4.6]バーチャル感性工学
 [4.7]協調型感性工学
5章 感性工学の実例
 [5.1]ミルボンのシャンプー・トリートメント
 [5.2]ネーミング診断システム―WIDIAS
 [5.3]バーチャル感性工学
 [5.4]橋と感性工学
6章 感性の評価測定法
 [6.1]心理尺度
 [6.2]マグニチュード推定法
 [6.3]リッカート・スケール
 [6.4]SD法
7章 感性の分析
 [7.1]感性工学に関連する統計分析手法
 [7.2]主成分分析
 [7.3]因子分析の目的と原理
 [7.4]クラスター分析
 [7.5]ニューラルネットワークによるクラスター分析
 [7.6]多次元尺度構成法
 [7.7]数量化理論I類
 [7.8]一対比較法の感性工学への応用
 [7.9]遺伝的アルゴリズムと感性工学
8章 感性の線形性・非線形性の取り扱い
 [8.1]感性の線形性と非線形性
 [8.2]線形回帰・非線形回帰による分析
 [8.3]ノンパラメトリック回帰による感性分析
9章 ラフ集合と感性ルール獲得
 [9.1]感性工学における感性ルールの獲得
 [9.2]ラフ集合の基本的概念と方法
 [9.3]感性工学での決定ルール獲得のためのラフ集合モデル
 [9.4]属性とその組み合わせの重要度評価
 [9.5]属性のあいまい度を表現する区間ルールの獲得
 [9.6]属性と感性クラスにおけるあいまい度を用いた区間ルールの獲得
10章 感性工学システムの構築
 [10.1]感性工学システム構築の基本的手続き
 [10.2]感性工学システムの設計
 [10.3]システム設計とその実例
 [10.4]バーチャル感性工学