遠隔教育

―生涯学習社会への挑戦

マイケルG.ムーア、グレッグ・カースリー 共著
高橋悟 編訳

生涯学習社会を支援し、人に優しい可能性追求型社会を実現する遠隔教育。その歴史的成り立ちや発展の経緯、効果と理論的枠組み、導入・運営・評価に関する実務について、広く深く踏み込んで解説。英語圏はもちろん、韓国、中国でも翻訳出版された遠隔教育のバイブルの待望の邦訳。今後の教育のゆくえを示す羅針盤。

書籍データ

発行年月 2004年2月
判型 A5
ページ数 352ページ
定価 本体2,800円+税
ISBNコード 978-4-303-73471-8

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概要

 本書は編訳者が1998年から99年にかけて留学していたハーバード大学教育大学院の双方向遠隔教育(Interactive Distance Education)という授業科目の教科書として使われていたものである。
 著者の1人であるムーア氏は遠隔教育分野の世界的権威であり、米国で最初の遠隔教育に関する学術誌American Journal of Distance Educationの創刊者である。また現職の大学教授であるとともに優れた実践家でもある。おおよそ遠隔教育の研究者であれば、世界中で彼の名前を知らない人はいないであろう。もう1人の著者であるカースリー氏もまた本分野(とくにオンライン教育)のコンサルタントであり、同時に複数の大学で教鞭をとる教育者でもある。
 彼らの活動範囲が示すように米国では大学教員と民間コンサルタントの垣根が低く、両者はきわめて互換性が高い。今後わが国でも国立大学、公益法人の独立行政法人化を受けて、象牙の塔にこもることなく、兼業したり状況に応じてステータスを変更する個人や、異職種間で連携する組織が増えていくものと思われる。
 さて、編訳者が本書と最初に出会ったのは1999年2月であるが、その後、海外出張で訪れたジョージワシントン大学(米国)、フィリピン大学、エチオピア教育メディア局、南太平洋大学(フィジー)などでも出くわした。それらの機関の人々が本書を座右の書としており、本書がいわばバイブル的な名著であることを知るに至ったのである。著者は「序文」で本書を皮相的であると謙遜しているが、遠隔教育の歴史的成り立ちや発展の経緯、その効果と理論的枠組み、さらに導入、運営、評価に関する実務の部分などについて、ここまで広く、深く踏み込んで書かれた本は他に類を見ない。
 本書の原著は1996年に出版され、今回日本語版が発行されるまでに8年が経過した。技術の進歩はめざましく、本書にはカセットテープなど、いまの日本ではほとんど使われなくなったものも登場する。しかし、本書で示された遠隔教育の本質や原理原則は何ら変わることなく、それらは今日でも鋭い光彩を放っている。それどころか今後の教育のゆくえを示す羅針盤として本書の価値はいや増して高いといえよう。
 近い将来、わが国が急激な高齢化と少子化を迎えることは必至である。すでに短期大学の多くは入学志願者が定員割れしており、大学は選り好みさえしなければ誰でも入れる時代になりつつある。誰でも入れるなら無理をしていま行く必要はないと考える人もいるであろう。まさに企業のみならず教育機関にとっても生き残りを賭けた時代となったのである。生涯学習先進国である米国では22歳以下の大学生(学部学生)の割合は相対的に低下しており、学生の高齢化、社会人の学生化が進んでいる。これは大学院レベルにおいてはよりいっそう当てはまることである。
 今後わが国においても学ぶ意欲のある人たちを引きつけるために、自身の存亡を賭けて遠隔教育の導入に踏み切る機関が出てくるかもしれない。また歴史と伝統ある機関であってもさらに多くの学生に教育を提供しようとするならば、既存の施設では物理的に収容不可能であり、学生の自宅や職場のパソコン画面を新たな「教室」とする遠隔コースの開発が不可欠となる。
 もともと学びとは自発的で能動的な行為である。人生のいつの時点でもどこにいても学びたいものを学びたい人から学べることが理想であり、それが時間と距離の束縛を解き放つ遠隔教育によって現実のものとなりつつある。その意味で生涯学習社会は地球規模で進展中である。日本もこれに遅れることは許されない。一流大学を卒業すれば一流企業に勤めることができ、豊かで安定した生活を送ることができるという神話は過去のものとなった。1990年代の前半以降、わが国は価値を創造する実力ある個人や組織だけが生き残る社会へと大きく変貌した。やる気と能力のある人はどんどん伸びることができるようになったのである。
 それでは遠隔教育は、競争を激化させ、自然淘汰を加速させるのだろうか? 答えはノーである。真の生涯学習社会とは、「やりなおしのきく社会」であり、「弱者の可能性の扉を開く社会」である。遠隔教育の基本はあくまでも在宅学習であり、それゆえ外出が困難なお年寄りや体の不自由な方々にこそより広く受け入れられる余地がある。また家庭にいて小さな子供や年老いた親の面倒を見なければならない人に対しても同様である。生涯学習社会とは自ら学び得たものを社会に還元していく動的なプロセスそのものであり、この点からも遠隔教育は生涯学習社会を支援し、人にやさしい可能性追求型社会の実現に寄与するものなのである。(「編訳者まえがき」より)

目次

第1章 遠隔教育の基礎
 [1.1]遠隔教育の定義
 [1.2]遠隔教育のレベル
 [1.3]システムアプローチ
 [1.4]遠隔教育システムのコンポーネント
 [1.5]変貌する遠隔教育

第2章 遠隔教育の歴史
 [2.1]通信教育と独立学習
 [2.2]用語と概念の問題
 [2.3]AIMとオープン大学
 [2.4]放送と遠隔会議
 [2.5]人工衛星とコンソーシアムの出現
 [2.6]コンピュータネットワークとマルチメディア

第3章 遠隔教育の範囲
 [3.1]通信
 [3.2]独立学習
 [3.3]遠隔コース
 [3.4]オープン大学
 [3.5]衛星テレビネットワーク
 [3.6]コンピュータネットワーク

第4章 効果に関する調査研究
 [4.1]技術の効果
 [4.2]メディアの効果
 [4.3]効果的なコースデザイン
 [4.4]教育戦略
 [4.5]費用対効果
 [4.6]政策に関する調査研究
 [4.7]結論:理論と調査研究

第5章 技術とメディア
 [5.1]印刷
 [5.2]カセットテープとビデオテープ
 [5.3]ラジオとテレビ
 [5.4]遠隔会議
 [5.5]コンピュータによる教育
 [5.6]メディアの選択
 [5.7]メディアの統合

第6章 コースのデザインと開発
 [6.1]教育システムデザイン
 [6.2]開発チーム
 [6.3]学習ガイドのデザイン
 [6.4]音声会議の準備
 [6.5]衛星遠隔会議の企画
 [6.6]コンピュータ会議
 [6.7]学生の参加を促す
 [6.8]評価
 [6.9]一般的なデザインの原則

第7章 教授法と個別指導
 [7.1]遠隔教育は教室授業とどのように違うか
 [7.2]3種類のインタラクション
 [7.3]新しい教授法:参加型授業対講義型授業
 [7.4]教員の役割
 [7.5]サイトコーディネーター
 [7.6]個別指導
 [7.7]試験と提出課題
 [7.8]教員の視点とトレーニング

第8章 遠隔学習者
 [8.1]成人学習の特徴
 [8.2]教育を受ける機会の提供
 [8.3]遠隔教育における学生の成功要因
 [8.4]学生の反応
 [8.5]学生に対する支援

第9章 運営、管理、政策
 [9.1]計画策定
 [9.2]人材の確保と配置
 [9.3]予算
 [9.4]スケジュール
 [9.5]品質評価
 [9.6]政策

第10章 遠隔教育の理論的根拠
 [10.1]「遠隔教育」という用語の歴史
 [10.2]相互対話距離の理論
 [10.3]理論の洗練化
 [10.4]Sabaのシステム力学
 [10.5]Kemberのオープン学習モデル
 [10.6]結論:理論的分析の重要性

第11章 国際的展望
 [11.1]世界の遠隔教育の概観
 [11.2]全国規模の遠隔教育システム
 [11.3]開発途上国の遠隔教育
 [11.4]国際遠隔教育の促進
 [11.5]さらなる情報

第12章 教育の変貌
 [12.1]遠隔教育の導入
 [12.2]変化する教育機関の性格
 [12.3]台頭する技術のインパクト
 [12.4]教員訓練
 [12.5]生涯学習
 [12.6]組織同士の競合と協力
 [12.7]第3世代の遠隔教育:遠隔教育ネットワーク
 [12.8]システムアプローチへの最終考