海上保安庁特殊救難隊

―限りなき挑戦

北岡洋志 著
(海上保安庁特殊救難隊初代隊長)

転覆した船内からの人命救助や危険物積載船の火災・爆発の鎮圧などさまざまな困難な状況で活動する海上保安庁特殊救難隊の活動を初代隊長の筆者が、後輩への継承と海上で働く人たちの安全を願ってまとめた。
[2007年8月、5版発行]

書籍データ

発行年月 1997年7月
判型 四六
ページ数 240ページ
定価 本体1,800円+税
ISBNコード 978-4-303-63460-5

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概要

 昭和43年、海上自衛隊第1術科学校で潜水を学んで以来、28年にわたる永い間、転覆船内からの人命救助や危険物積載船の火事、爆発又は流出の鎮圧等(高度な知識及び技術を活用して行う救難業務であり、以下「特殊救難業務」という。)と関わりのあるポストを歩み続け、平成7年4月、特殊救難業務とは直接関わりのないポストに就くことになった。
 潜水員や特殊救難隊長として特殊救難業務に従事したことで、一般の海上保安官では滅多に味わうことのできない海難を経験し、数多くの楽しい思い出を持つことができた。荒天下で救助作業ができるかどうか悩み、胃の痛む思いで決断した救助作業が成功して遭難者のほっとした顔を見た時の感激、何回も訓練を重ねた末にやっと作業ができるようになった時の喜び、試行錯誤を繰り返した作業法が救難作業の現場で役立ったときの満足感、命を預けられる仲間との信頼関係等は素晴らしい思い出として何時までも残ることであろう。
 救助技術に取り組む姿勢について振り返ってみると、当初は教えられた技術を磨いて事案処理に当たるだけで精一杯だったものが、経験を積むに従い、さらに過去の海難救助報告書や関係する資料等から得た知識を活用して次の救助作業に備えるように変わり、潜水教官を経て特殊救難隊長になるころにはいくらか知恵が働いて、これまで海難救助作業には使用されていなかった消防の救助技術等をどう取り入れていくか、過去の海難救助事例から何を学びとるかを考えることができるようになり、それまで海上保安官ができなかった作業をいろいろと実施することができるようになった。
 特殊救難隊長時代に大きな事故を起こすことなく、新たに導入した技術を活かすことができたのは、潜水員時代以降の作業経験や小さな失敗の積み重ねがあったからと考えている。特に、失敗の経験は、体や心に痛みを伴って「二度と同じ失敗はしたくない」という思いと共に記憶に焼きつき、事故を防止する良い教訓となったようである。また、経験を積むに従い、救難作業報告書や事故報告書等の資料で得た知識を疑似体験として取り込むことができるようになり、考える作業の幅が広がり、困難な作業を事故なく実施することができるようになっていった。これらの失敗や作業を実施した経験は、困難な特殊救難作業に従事するときに精神的な余裕を与えてくれ、作業計画を策定するときの大きな財産となっていたようである。
 特殊救難隊を離れるときは、体力的にも現役として活動できるという自負もあり、もう少し続ければ可能になる作業があるのではないかという気持ちが強く、特殊救難をもっと極めたいというこだわりを持ったまま転出することとなった。
 そして、全般的な海上保安業務に携わる立場になって海難救助に従事しているうちに、特殊救難に対するこだわりが、海上保安庁の救助能力の限界を極めたい、自分の持っている特殊救難に関する知識技術を確実に後輩に引き継ぎたいという願望に変わっていった。
 救難強化巡視船(高度な知識、技術を必要とする海難の救助活動において中心的役割を果たす目的で、全国に11隻指定されている巡視船)おじか船長の職は、特殊救難能力を有する職員を部下に持ち、他の船艇、航空機と連携して海難救助に従事する機会も期待でき、自分の願望を実現するために最も相応しい立場であった。お陰で、乗組員の全面的な協力もあり、最新鋭の救難強化巡視船の救難能力はもとより、他の巡視船、航空機との連携作業についても自分なりに把握することができ、さらに自分の持っている特殊救難に関する知識、技術も可能な限り伝承することができたことから、それまで持っていた特殊救難に対するこだわりからやっと卒業する事ができた。
 海上保安庁で勤務しているかぎり、海難救助との関わりがなくなることはないが、特殊救難と関わりのない新たな職に付く前に、長い間持ちつづけた特殊救難に対するこだわりから卒業できたことは望外の喜びであり、このような機会を与えてくれたことに心から感謝している。この卒業を記念して、自分が潜水と出会ってから特殊救難隊を離れるまでに経験した失敗や印象に残る海難事例を纏めたものに現在考えていることを付記したので、これから続く潜水士や特殊救難隊員が、作業の記録は疑似体験として能力を高めることに活用し、失敗の事例は同じ失敗を繰り返さないための参考として活躍するために幾らかでも役立てて頂ければ幸いである。(「序にかえて」より)

目次

プロローグ
 初出動

第1章 潜水との出会い
 潜水との出会い
 海上自衛隊での潜水研修
 スロープ滑落事件(研修中のミス)

第2章 潜水員時代
 水深24メートル素潜り捜索
 座礁船からの人命救助
 こんな所に沈没船が!
 転覆船からの人命救助
 水深24メートル残圧ゼロ(展示訓練中のミス)

第3章 潜水教官時代
 自衛隊コンプレックスが解消した話
 船首部だけ海面に出してなかなか沈まなかった転覆船
 遺体が怖い潜水員の話
 転覆船の浮力機構について
 残念!猫瀬戸の訓練中止

第4章 特殊救難隊活動準備期間
 特殊救難隊設立準備(本庁勤務)
  ・隊長選出の経緯
  ・「特救隊に訓練時間を下さい」とお願いした話
 研修
  ・訓練期間
  ・東京消防学校での研修
  ・海上保安大学校での研修
 庇からの転落(レンジャー訓練中のミス)
 船体に激突(ヘリコプターからの降下訓練中のミスその一)
 導索が足に絡んで上空へ(ヘリコプターからの降下訓練中のミスその二)

第5章 特殊救難隊長時代
 巻き網漁船転覆海難
 沖合底引網漁船転覆海難
 小型鋼船転覆海難
 マグロ延縄漁船転覆海難
 大型タンカー火災海難
 貨物船火災海難
 LPGタンカー火災海難
 御前埼丸負傷者救助
 台風20号に伴う海難救助
 曳航作業日没敗退