ヒューマンファクターと事故防止
―“当たり前”の重なりが事故を起こす―


エリック・ホルナゲル 著
小松原明哲 監訳
清川和宏・弘津祐子・松井裕子・作田博・氏田博士 訳

A5・254頁・定価(本体3,300円+税)
ISBN4-303-72992-2
初版2006年3月発行

amazonの紹介ページへ bk1の紹介ページへ セブンネットショッピングの紹介ページへ

 概 要
高いレベルの安全ということは、製造、輸送、通信、公共サービス、商業、医療など、あらゆる業務において重要な関心事である。高いレベルの安全は、一般にインシデントや事故がないことによって評価され、また産業安全の目標は、インシデントや事故の防止であるということは、正当なことである。

この観点から見ると、いささか驚くべきことは、安全にかかわるほとんどの手法は、事故またはリスクのいずれかの“分析”についてのみ扱っていることである。分析はもちろん防止のための前提条件だが、リスクに切り込んでいくのには十分ではない。リスクがインシデントや事故に変わることを防ぐ、効果的な手段を開発することも必要である。このような防止により、危険な事象の発生の抑止、またはその結果に対する防御を試みることができる。

本書は、分析方法と防止方法との不均衡を減ずるための試みとして書かれたものである。したがって本書の狙いは、事故の防止に対する実践的なアプローチを開発することにある。このことは、バリアの役割を詳細に検討することによってなされる。バリアは、阻害、遮断、延引、抑制などとして定義されるもので、(1)事象の発生を防止する、または(2)それにもかかわらず事象が発生したときには、その結果の影響を妨げるまたは減じる作用があるものである。バリアは、高いレベルの産業安全を達成し、維持するための基本的なツールであり、本書は、この原理を実際に使用するための実践的なアプローチを与えるものである。

バリアは事故防止のための効果的なツールだが、産業安全改善のための努力は、不幸にも、まったく異なった種類のバリア、すなわち不適切なリスク本質の理解によって、妨げられることがある。事故分析と、とくにリスク評価で共通的に使われている手法は、分解可能性と線形性の仮定に基づいている。初めの仮定は、システムを部品に分解できること、またリスクは構成要素の故障率によって適切に理解できることを意味している。第二の仮定は、システムの出力は入力に対応していること、すなわち結果として発生する事象が予測可能であることを意味している。これらの仮定が正しいとしたら、リスク評価は構成要素の故障率の線形な組み合わせに基づくことができる。だが、現在の複雑な社会・技術システムからの経験では、どのようなものであっても、これらの仮定が正しくないことを示している。そこで、先述した不適切なバリアを取り除く最初のステップは、そうした事態の存在を認識し、その成り行きを明確に理解することである。それゆえ本書の重要な部分は、事故とリスクについて我々はどのように考えることができるのかという議論であり、このことこそが現実の事故防止につながるものとなるのである。(「日本語版に寄せて」より)
 
 目 次
第1章 事故と原因
     1.1 序論
        1.1.1 事故とは何か
        1.1.2 簡単な語源
     1.2 事故、原因と結果
        1.2.1 望まない結果
        1.2.2 予期しない事象
        1.2.3 意図した行動と意図しない結果
        1.2.4 蒸気船ストックホルム号の座礁
        1.2.5 事故、インシデント、およびニアミス
     1.3 原因の探索
        1.3.1 事実と説明
        1.3.2 説明と原因との相違
        1.3.3 科学技術の失敗から「ヒューマンエラー」へ
        1.3.4 因果関係と時間
        1.3.5 原因の概念の進展
        1.3.6 原因の皮肉な定義

第2章 事故について考える
     2.1 序論
        2.1.1 科学と哲学における原因探索
        2.1.2 因果関係
     2.2 事故モデルの必要性
        2.2.1 連続的事故モデル
        2.2.2 疫学的事故モデル
        2.2.3 相発的事故モデル
        2.2.4 モデルに対するコメント

第3章 バリアの機能とバリアシステム
     3.1 序論
        3.1.1 バリアの起源
        3.1.2 バリアの例
        3.1.3 扉の出入り
        3.1.4 バリアと事故
     3.2 バリアの利用と記述
        3.2.1 事故の防止
        3.2.2 バリアとMORT
        3.2.3 リスク分析におけるバリアの概念
        3.2.4 事故進展バリア(AEB)モデル
        3.2.5 バリアと潜在的な失敗
        3.2.6 ソフトウェアシステムにおけるバリア
     3.3 バリアの分類
        3.3.1 バリアの起源に基づく分類
        3.3.2 バリアの目的に基づく分類
        3.3.3 バリアの位置に基づく分類
        3.3.4 バリアシステムの分類
        3.3.5 バリアの機能の分類
        3.3.6 複合バリアシステム
        3.3.7 再びバスの扉
     3.4 バリアの分析とバリアの設計
        3.4.1 バリアの質
        3.4.2 バリアと失敗モード
     3.5 他のタイプのバリア
        3.5.1 組織的バリア

第4章 事故におけるバリアの役割を理解する
     4.1 序論
     4.2 事故分析でのバリアの表現
        4.2.1 フォールトツリー
        4.2.2 イベントツリー
        4.2.3 フォールトツリーとイベントツリーの比較
        4.2.4 事故記述でのバリアの表現
        4.2.5 図的表現の限界
     4.3 バリア機能の複雑さ
        4.3.1 相互性
        4.3.2 バリアのバイパス
        4.3.3 意図しないバリア
        4.3.4 両方向のバリア
     4.4 バリアと事故防止
        4.4.1 事故への対応

第5章 相発的事故モデル
     5.1 序論
        5.1.1 時間と変動性
     5.2 効率-完全性トレードオフの原則
        5.2.1 作業の正規の条件と実際の条件
        5.2.2 最適なパフォーマンスのパラドックス
        5.2.3 局所的最適化の必要性
        5.2.4 なぜ物事は(ときには)悪くなるのか
        5.2.5 効率-完全性トレードオフ(ETTO)の原則
        5.2.6 実行上のETTO
        5.2.7 成功の原因
     5.3 事故のモデルとしての確率共鳴
        5.3.1 タコマ海峡橋
        5.3.2 ロンドン千年橋
        5.3.3 確率共鳴
        5.3.4 複雑系での共鳴
        5.3.5 確率共鳴から機能共鳴へ
        5.3.6 機能共鳴事故モデル(FRAM)
        5.3.7 FRAMについて

第6章 事故防止
     6.1 序論
        6.1.1 リスクの実体
        6.1.2 必要な想像力
        6.1.3 想像力の制御
     6.2 事故の予測
        6.2.1 ステップ1:本質的なシステム機能の同定
        6.2.2 ステップ2:変動の可能性の決定
        6.2.3 ステップ3:機能間の依存性に基づく機能共鳴の定義
        6.2.4 ステップ4:対策の決定
     6.3 パフォーマンス変動管理
        6.3.1 パフォーマンスの変動の検出と制御
     6.4 後退する現場サイド


関連書
   ヒューマンエラーを理解する
経営/管理(品質・安全管理)のページへ
トップページ
弊社へ直接ご注文の場合はこちらから