認知システム工学
―情況が制御を決定する―


エリック・ホルナゲル 著
古田一雄(東京大学工学系研究科助教授)監訳
A5・344頁・定価(本体3,700円+税)
ISBN4-303-72990-6
初版1996年9月発行

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 概 要
本書は、Erik Hollnagel著、Human Reliability Analysis : Context and Control (1993)の全訳である。ホルナゲル博士は、人間信頼性解析、認知システム工学など、認知や人間機械系に関わる広い分野の世界的権威で、現在はOECDのハルデン・プロジェクトにおいて、原子力プラントのマンマシン・インタフェースに関する研究を指導する立場にある。その博士が、長年にわたる自身の研究成果に基づいて、人間の認知作用の信頼性評価という難解な問題にどうアプローチしたらよいかを論じたのが本書である。具体的には、原子力発電所や航空機の事例がよく引用されているが、本書の内容はこれら特定の産業分野にとどまらず、認知工学やマンマシン・インタフェース全般に広く適用可能である。

本書の中で博士が最も強調しているのは、「要素分解原理」に基づく解析的手法では、人間行動の本質は解明できないということである。人間行動は、それが行われる情況によって主に決定され、その本質は情況の全体性の中にある。ところが、人間行動を基本的行動の単位のようなものに分解したのでは、情況に関する情報は消失し、人間行動の本質を理解することは不可能になってしまう。したがって人間行動の理解は、要素分解原理によらない別の方法でアプローチしなければならない。

対象をあるがままの全体として理解するというのは、どちらかというと東洋的なアプローチである。これに対して欧米では、対象を構成要素に分解し、解析的に理解するという「科学的」アプローチを確立したことによって、自然科学の分野で輝かしい成果をあげてきた。そして、要素分解原理があまりに華々しい成果をあげてきたために、我々はこれに従わないアプローチを非科学的と思っているところさえある。ところが、認知科学、人工知能、生命科学、複雑システムといった分野では最近、このような伝統科学のアプローチだけではどうにも歯が立たないのではないかと多くの研究者が感じているのではないだろうか。このような分野に共通するのは、対象が複雑で、非線形な相互作用があり、全体の振舞いが情況に支配され、部分の振舞いから全体の振舞いを予測できないといった性質である。そして要素分解したのでは、これらの性質はすべて消失してしまう。それを避けるためには、全体論的アプローチによって対象を理解するより他はない。このように、さまざまな分野で要素分解原理の限界が認識されつつある現在、これに代る全体論的アプローチを提唱した本書が著されたことは、きわめて意義深いのではないだろうか。(「監訳者あとがき」より)
 
 目 次
第1章 行動、信頼性、そして望ましからざる結果
     1. 人的因子の興隆
     2. 複雑さと望ましからざる結果の相互作用
     3. 事故の解剖学
     4. 人間信頼性
     5. 大統領の心臓発作
     6. 「ヒューマンエラー」と過誤的行為
     7. 複雑さと認知作用
     8. 要素分解の作為
     9. まとめ

第2章 認知作用の信頼性モデルの必要性
     1. 序論
     2. 要素分解原理
     3. 信頼性解析と事象評価
     4. 可復性と類似性
     5. 人間信頼性と過誤的行為の解析
     6. 人間信頼性と認知作用の信頼性
     7. まとめ

第3章 人間信頼性評価の本質
     1. 工学的定量評価
     2. 人間と機械の違い
     3. 同定可能なモデルとカーブ・フィッティング
     4. 優れたモデルの必要性
     5. 人間信頼性解析の技法
     6. 人間信頼性研究の障害
     7. 人間信頼性の評価
     8. 人的因子信頼性ベンチマーク問題
     9. 人間信頼性解析手法の概要
     10. まとめ

第4章 モデルの基本構造
     1. 認知作用のメタファとモデル
     2. 認知作用の手順プロトタイプ・モデル
     3. 認知作用の状況決定制御モデル
     4. 制御モード
     5. 状況決定制御モデル(COCOM)
     6. 制御モードと行動特性
     7. まとめ

第5章 従属的弁別法
     1. 人間信頼性評価の基礎
     2. タスク解析の原理
     3. タスク解析の論理
     4. 目標手段タスク解析法
     5. タスク記述に課される条件
     6. 共通行動モード
     7. タスク解析から共通行動モードへ
     8. 従属的弁別法の利用
     9. 従属的弁別法とCOCOM
     10. まとめ

第6章 考察
     1. 人間行動の解析
     2. 状況決定制御の観点から導かれる結果
     3. 超自然環境
     4. 人間信頼性解析の実施
     5. 解析手法の比較
     6. 注意と認知作用の信頼性
     7. COCOMと認知作用の信頼性
     8. 結言

付録 システム応答生成機
     1. 安全・信頼性解析の実際
     2. システム応答生成機


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