
水産と海洋の科学
水産高等学校の新しい科目「水産海洋科学」の教科書として使用されることを前提に、文部科学省の新指導要領に沿って構成されている。海洋と生活/海洋の科学/水産の新しい展開について、各分野の専門家が最新の知見を含めて、豊富な図と写真で解説。「海」に関心を持つすべての人に読んでもらいたい内容となっている。
[2017年3月、3版発行]
書籍データ
発行年月 | 2014年3月 |
判型 | B5 |
ページ数 | 180ページ |
定価 | 1,980円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-11490-9 |
概要
「日本は資源の乏しい小さな国である」と、みなさんは学校でもマスコミなどでもよく耳にしてきたことだろう。確かに国土の面積は約37.8万平方キロメートル、世界的にはおよそ60位ほどで、資源にも恵まれている国とはいえない。しかし、それは国土についてであり、海に目を移せばまったく変わってくるのである。
日本が占める海の面積(領海+排他的経済水域)は約447万平方キロメートル、世界第6位である。さらに日本の近海は深い海が多いため、海水の体積では第4位という計算もある。私たちの住む日本は「海」という広大な面積を保有し、そこには多くの生物、鉱物などの資源を有する国なのである。
国連白書によれば世界の人口は、西暦1800年に約10億人、1900年には約16億人だったものが、2000年には60億人を超え、現在では何と70億人を突破したという。予測では2050年には90億人を超えるとさえいわれている。人類は20世紀に入り、人口爆発を起こしているのである。その結果、現在約10億人が飢餓状態にあり、今後さらに増大することが予想される。すでに世界の海では「魚の争奪戦」が繰り広げられており、年々増加してきた世界の漁業生産量も、この先、より智恵と努力を働かせなければ、近い将来低下も訪れることになるであろう。そうなれば、食料確保は極めて深刻な問題となる。21世紀は正に「食料争奪の世紀」でもあるといえる。
ところが日本は、水産業を含む食料産業への重要性に対する認識が乏しいような気がしてならない。工業化ばかりに重点がおかれ、高い経済力により、これまで輸入という手段で食料を確保してきていた。しかし、諸外国の経済力向上や世界の人口爆発などにより、今後は輸入という手段では賄いきれなくなることが予想される。そうならないためには水産に関する科学力向上と、国民の意識変革が不可欠となる。なにより食料は、エネルギー、防衛と並ぶ国家存立の3本柱であるからだ。
海底資源に目をやれば、現在、採掘調査が盛んに進められている。金、銀、コバルト、ニッケルをはじめ、多くの鉱物資源が海底には眠っており、各国が争って採掘権を確保しようとしている。また熱水鉱床とよばれるところからは、レアメタルなどの有用な物質が抽出されており、これへの調査も盛んになってきている。
さらに近年、地球の環境破壊が深刻な問題となってきているが、「海」はこの地球環境を支配している一大要因であり、私たち生物を生み出した母でもある。「海」を守ることは、地球を守ることにも、延いては人類を守ることにも繋がるのである。
こうしたことを踏まえ、本書は海や水産に関して専門の方々に、最新の知見を含めて執筆していただいた。「海」に関心を持つ人が、本書を通して「海」への理解を深めていただけたら大変うれしい限りである。(「はじめに」より)
目次
第1章 海洋と生活
第1節 海洋の知識
1-1 生命をはぐくむ海
1-2 日本人と海
1-3 漁場の形成
1-4 漁場を左右する天候、海流
1-5 持続可能な漁業と里海
第2節 水産資源の育成と漁業
2-1 生育環境の改善
2-2 水産資源の増養殖
2-3 漁業の管理
2-4 漁業生産の技術
第3節 水産物の需給と流通
3-1 世界の水産物需給
3-2 日本の水産物需給
3-3 水産物流通の機構
3-4 水産物流通をめぐる新たな動き
第4節 食品としての水産物
4-1 水産加工原料
4-2 近年の水産加工品の動向
4-3 今後の水産加工のために
4-4 日本の魚食文化
第5節 船の役割
5-1 船とは
5-2 種類と大きさ
5-3 運航形態と操縦性
5-4 船の設備
5-5 安全航海のために
5-6 IT化の進む船
5-7 進化する船
5-8 緊急時の船の役割
第6節 海洋政策と海洋関連産業
6-1 海洋基本法の成立と海洋産業
6-2 海洋産業の種類と規模
6-3 水産資源の開発・利用
6-4 海上輸送産業
6-5 漁村の多面的機能と海洋性レクリエーション
第2章 海洋の科学
第1節 海洋の地形と海水の組成
1-1 地球の形と構造
1-2 海底地形
1-3 プレートテクトニクスと海底の構造
1-4 火山と地震
1-5 海水の組成
1-6 水温・塩分の鉛直構造
1-7 水温・塩分の水平分布
1-8 海水の流動
第2節 海洋と生命
2-1 進化と起源
2-2 海洋生物の分けかた
2-3 分布を広げる幼生
2-4 移動するプランクトン
2-5 生産者と消費者
2-6 生態的地位
2-7 さまざまな卵の性状
2-8 多様な繁殖様式
2-9 分解者
第3節 海洋と気象
3-1 大気と海洋の相互作用
3-2 海面における水温、塩分などの測定
3-3 化学特性の測定
3-4 最新の海洋観測機器
3-5 海上気象観測
第4節 海洋の資源・エネルギー
4-1 エネルギー資源と鉱物資源
4-2 海洋のエネルギー資源
4-3 海洋の鉱物資源
4-4 海底資源開発と環境アセスメント
4-5 海底資源開発の取り組み
4-6 海洋エネルギーの利用
第5節 深海の世界
5-1 深海の環境
5-2 深海の生物
5-3 深海の利用と保全
5-4 最新の深海研究
第6節 海洋と環境問題
6-1 沿岸海域の環境保全
6-2 海洋の環境問題
6-3 森・川・海のつながり
第3章 水産の新しい展開
第1節 水産業の新たな姿
1-1 沿岸域の生業と暮らし
1-2 6次産業化の概要
1-3 6次産業化の活動事例
1-4 新たな資源の活用と地域活性化
第2節 水産物の高度利用
2-1 魚介類はなぜ腐りやすいのだろうか
2-2 保存性を高める技術
2-3 構成成分の特徴と機能
2-4 不可食部分の利用
2-5 魚介類のさらなる有効利用のために
第4章 探究活動
第1節 探究活動の進め方
第2節 探究活動のテーマ例
プロフィール
吉田 次郎 (東京海洋大学海洋科学部 教授)
田中 栄次 (東京海洋大学海洋科学部 教授)
有元 貴文 (東京海洋大学海洋科学部 教授)
馬場 治 (東京海洋大学海洋科学部 教授)
岡崎 惠美子 (東京海洋大学海洋科学部 教授)
大迫 一史 (東京海洋大学海洋科学部 准教授)
内田 圭一 (東京海洋大学海洋科学部 助教)
坂本 泉 (東海大学海洋学部 准教授)
轡田 邦夫 (東海大学海洋学部 教授)
秋山 信彦 (東海大学海洋学部 教授)
田中 博通 (東海大学海洋学部 教授)
喜多村 稔 (海洋研究開発機構 技術研究主任)
川上 哲太朗 (東海大学海洋学部 教授)
関 いずみ (東海大学海洋学部 准教授)
落合 芳博 (東海大学海洋学部 教授)
長谷川 勝治 (日本大学生物資源学部 非常勤講師)