植物生体電位とコミュニケーション

大薮多可志・勝部昭明 編

世界的な課題である環境問題や人口問題、食糧問題などは、植物の生態系と深くかかわっている。本書は植物が持つ、環境要因を認識し、化学的応答や生体電位を介して情報をコミュニケーションする能力を把握し、環境センサや植物育成制御などに活用することを目的に、幅広い分野の専門家8名が、基礎から応用まで解説する。

書籍データ

発行年月 2009年4月
判型 A5
ページ数 168ページ
定価 2,420円(税込)
ISBNコード 978-4-303-71032-3

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概要

21世紀に入り環境問題や人口問題、食糧問題など多くの課題が派生してきており、我々の前に地球規模での問題として認識されるようになった。これらの諸問題は、個別に考えられるものではなく、グローバルな環境維持の問題であり、植物の生態系と深いかかわりがあることも考慮しなければならない。植物が我々に与える影響については日常深く考えることはないが、身近には地球温暖化の主要物質である二酸化炭素を吸収し酸素を放出する。食糧問題や人口問題では穀物や野菜などを提供し、貧困問題を解決するための大きな鍵を握っている。すなわち人類は持続的な環境維持を考慮し、植物の豊かな恵みを失わないよう努力しなければならない。しかしながら、植物のさまざまな機能を理解している人は少ない。たとえば、植物が情報伝達能力を有していることはほとんど知られていない。また、植物は生息している環境に適合しないからといって動物のように移動することはできない。このため、優れた環境適応能力を持っており、ある意味で非常に高等な生物である。この植物の機能を利用することで人間社会への貢献度をさらに高め、共生していくことができるであろう。

近年、植物工場の話題が多くのマスコミや研究会で取り上げられている。植物の成長を制御し、必要なときに必要なものを必要なだけ収穫したいとする我々の要求から検討されてきたものであるが、これは高度技術を植物育成のために適用しようとする一例である。人類の文明は環境問題を生み出したが、我々は後ろを振り返ることはできない。より高度な技術により緑豊かな地球を取り戻さなければならない。植物は環境要因を認識し、化学的応答や生体電位を介して情報を伝達(コミュニケーション)する能力も有している。これらの機能を把握し、将来、環境センサや植物の育成制御などに活用することは今後の重要な課題になると思われる。

本書は、植物のコミュニケーション能力の解明を視野に入れたものであるが、主として生体電位について幅広い分野からの8人の専門家が基礎から応用について執筆した。(「まえがき」より抜粋)

【執筆者】大薮多可志(金沢星稜大学)第1章・第7章/勝部昭明(埼玉大学名誉教授)第2章/長谷川有貴(埼玉大学)第3章・第5章/中村清実(富山県立大学)第4章/松岡英明(東京農工大学)・斉藤美佳子(東京農工大学)第6章/広林茂樹(富山大学)第8章/南保英孝(金沢大学)第9章

目次

第1章 植物とのコミュニケーション

第2章 植物の生体電位と電気的特性
      2.1 細胞膜電位
      2.2 細胞組織の構造と電気的特性
      2.3 環境応答と信号伝達
      2.4 植物のインピーダンス特性
      2.5 植物生体電位の交流特性、ゆらぎ特性

第3章 生体電位の計測
      3.1 生体電位測定システムの性能
      3.2 電極の重要性
      3.3 測定方法の具体例

第4章 植物のサーカディアンリズム
      4.1 あらまし
      4.2 はじめに
      4.3 長時間計測システムおよび実験試料
      4.4 計測結果

第5章 光と生体電位
      5.1 光の照射時間と植物の生長
      5.2 光の波長と植物
      5.3 点滅光照射と植物の活動
      5.4 光照射に対する植物生体電位応答
      5.5 まとめ

第6章 匂いとCO2ストレス応答電位
      6.1 植物匂いセンサの発想
      6.2 CO2ストレス応答解析
      6.3 電気的シグナルがストレスシグナルを伝達する?
      6.4 単一細胞実験戦略の構想
      6.5 細胞膜への定量的電気的シグナル印加
      6.6 細胞内Ca2+濃度のリアルタイム計測システムの構築
      6.7 ストレス応答遺伝子の発現に対する細胞外からのCa2+流入の関与
      6.8 Ca2+導入のみによるRCC1遺伝子発現の誘導
      6.9 電気的シグナルによるCa2+の細胞内流入
      6.10 電気的シグナル、Ca2+の細胞内流入、キチナーゼ遺伝子発現の相関
      6.11 電位依存性Ca2+チャンネルの確認
      6.12 将来展望

第7章 環境要因と生体電位
      7.1 測定システム
      7.2 雰囲気温度と生体電位
      7.3 湿度と生体電位
      7.4 気圧と生体電位
      7.5 土壌中水分と生体電位
      7.6 風量と生体電位
      7.7 光量と生体電位
      7.8 人のふるまいと生体電位

第8章 人の動きと生体電位
      8.1 人と植物と生体電位
      8.2 バイオメトリックス認証と歩行動作
      8.3 非接触型の実験システム
      8.4 環境による観測信号の変化
      8.5 生体信号のモデル化と信号処理
      8.6 個人毎の生体電位信号
      8.7 周波数特性による個人差と今後の展望

第9章 植物との会話と情報処理
      9.1 はじめに
      9.2 植物との会話と癒し
      9.3 植物とのコミュニケーションシステム
      9.4 コミュニケーションシステムの構成例
      9.5 今後の展望